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シャルロッテが用意していたのは、ニョッキだった。
相当この料理が気に入ったらしく、アリスとMがドン引きするくらいの大量生産を達成してくれていた。未だに消費しきれない冷凍ダズル・キャンサーがシャルロッテの道具袋を圧迫していることを考えると、シャルロッテは気に入ったら大量に確保しておくクセみたいなものがあるらしい。
「それにしても、付け合せはパテなのな」
昼間にどこぞの火属性どもがラピッド・ボアのペーストを作りまくってくれたおかげだ。これ、絶対に暫くニョッキとパテ固定だろう。
「そうだ、マルガレーテの王子様!一階は夜間になると、テイスティ・マーモットが出るそうですよ!!」
食卓の上の料理を見ながら、マルガレーテが興奮気味に言う。
おそらく、好物のマーモットに反応したと思うのだが、テイスティというのが引っかかる。コレ、どっちの意味で「おいしそう」なんだろうか。
「分かった、これ食ったら、軽くその辺を見て来るか」
昼間は出ないモンスターに興味があるのも事実のため、俺は請け負う。
「あ、それなら、夜間限定で採取できるウイキョウをお願いできますか?」
シャルロッテが頼んでくるが、この迷宮は家庭菜園か何かなのか聞きたくなる頼みだった。
「別に良いが、何を作るつもりなんだ?」
「パスタ・コン・レ・サルデでもと思いまして。他の材料は一通り買ってあります」
イワシはどうやって持ち込んだと言おうとして、冷凍しているのだと気がつく。シャルロッテの氷系スキルは基本的に食べ物の保存に使われるのだ。便利と言えば便利だが、絶対に何か間違っている。
「あ、クロ助、マーモットは普通に食べたいから、わたしとエっちゃんはおなか空かせて待ってるよ!!」
「ああ、ケロの字、夜食頼んだ」
おい、お前ら本当に迷宮にナニしに来たんだ。しかも、おなか空かせるくらいなら、この非常識な量のニョッキとパテをどうにかしろ。
「あ、マッロレッドゥスもあったんでした」
「待て、シャルロッテ。お前、どんだけジャガイモと小麦粉を買いだめたんだよ?!」
シャルロッテがはっとした表情で言えば、どこからともなくプリちゃん人形が大量のマッロレッドゥスを運んでくる。なお、ニョッキもマッロレドゥスもジャガイモと小麦粉を使う料理だ。
「マルガレーテの王子様、シャルロッテが買い物に行った店は、小麦粉とジャガイモが在庫切れになるんですよ!フォレボワは収穫前でよかったですね!!」
「ああ、そうだなって、え?コレ、ヴェントの店売り分買占めしやがったのか?!」
町の人が食べる分は基本別になっているので、まあ、あまり問題ないと言えばそうなのだ。
しかも、アリスとMと言う大食いがいるので、寧ろ問題を解決しているとも言える。
前向きに考えるのが良いと俺は、現実逃避をしたのだった。当然のように、しばらくの間、俺たちの食事は、シャルロッテのシャルロッテによるシャルロッテのための秋の芋祭り化するのだが、この時点では知る由もなかった。




