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一通り攻撃を受けたプリちゃん人形は満足した様子で、入り口付近でおとなしく正座している。
俺と同じくらいの大きさの藁人形が正座する様はシュールだが、気にしては駄目だ。自らに暗示をかけるくらいには突っ込みどころが満載である。
「で、アリスとMは俺の側から離れるなよ」
俺を先頭にアリスとMが続き、その後ろがシャルロッテとマルガレーテが並ぶ。ナスターシヤはこの迷宮内で一番安全なので最後尾を行く。
「うう、トラップくらい大丈夫だよ!!」
「あたいも、大丈夫だよ!!」
「大丈夫だったタメシの方が皆無だろうが!!」
こいつらの対トラップの戦歴はもはや事故履歴である。「いしのなかにいる」だの「はいになりました」だののトラップがあっちこっちにあるこの迷宮での自由行動は本当に洒落にならない。
「あ、モンスター発見!!」
早くも、目ざとくアリスが何かを発見した。
「あ、それモンスターじゃなくてトラップですよー。マルガレーテの王子様、あれ疑似餌ってやつです」
「ああ、ありがとうって……おい、アリス!!M!!」
マルガレーテの報告を聞いている隙に馬鹿二名が疑似餌に釣られている。
俺はあわててシャドウ・バインドをけて動きを止めさせると、トラップを発動させないように二人を回収する。
「うう、斬りたかったのに」
「あたいもアノきざむ感触が欲しいんだ!!」
そして、言い訳は結構危ないときた。
さっきのプリちゃん人形の手ごたえのなさが気持ち悪くて、感触を忘れたいのは分かるが、もう少し頭を働かせて欲しいものである。いや、やっぱりロクなことにならなそうなので、考えなくて良い。
「もう少し行けば、ラピッド・ボアが湧くところに出るから、それまで斬りかかるのは禁止だ」
「肉!!」
言えば、アリスの目が輝く。よほど、好きなんだろう、ラピッド・ボアの肉。
「そう言うことなら、あたいもおとなしくしているよ!!」
きりっとMも言うが、涎ですべてが台無しである。
少し進めば、プリちゃん人形に出くわした広間に出た。今回は清掃あとなので、十数匹がぶきぶき鳴きながら徘徊しているだけである。
「それじゃあ、斬りかかっても良いぞ。食うつもりなら、ミンチはやめような」
「「肉ぅううううう!!」」
言い終わらないうちにアリスとMがラピッド・ボアに襲い掛かる。相変わらず、どっちがモンスターか分からなくなる光景である。
「クラウディオさん」
血飛沫と断末魔の地獄絵図を眺めていると、シャルロッテが困ったように声をかけてくる。
「どうした?」
「あの、アレ、ミンチと言うよりもペーストなので、どう調理したものかと」
言われて見れば、粉々と言うよりもどろどろといった感じである。あ、これナスターシヤに見せてはいけないグロさだ。
あわててナスターシヤの方を見れば、マルガレーテが目を塞いでくれていた。
「それよりもマルガレーテの王子様、あれ天井にも飛び散ってますけど、回収して食べたいですか?」
そして、目を背けたい事実を指摘してくる。
これ、もう食えないだろう。
「そうです!パテにしましょう!!」
げっそりしていると、シャルロッテが嬉しそうに言う。この光景を見て、メニューが思いつくとは、大物である。
こうして、ラピッド・ボアのパテ(トラウマ風味)は作られることになった。




