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その後、目立った事件もなく、ヴェントは冬至の祭りを終えた。
最終日の夜については、もう、考えないことにした。
ギルドも再開しているので、シャルロッテと二人で来たわけだが。
「ううう、敗因はなんだったんだろう……押さえ込んだハズだったのに」
などと、受付カウンターで受付嬢が突っ伏していた。いいかげん仕事をしろ。
「すみません。フォレボワから鳩が来てませんか?」
空気を読まないシャルロッテが、しれっと言った。これは読まなくていい空気なので、結構助かる。
「え?鳩?」
「はい、依頼していたことがあるので。来ていないのなら、いいです。それと、ネーベルの鳩を貸してください」
さくさく話すので、受付嬢がグダグダでも用件は済んでいく。
このギルドに受付嬢は要らないんじゃないかと思ってしまった。
「あ、これで良い?」
「はい、では、その間に私たちの許可証を発行しておいてください」
どちらが受付嬢なんだといいたいくらい、シャルロッテはさくさくいく。まあ、ヴェント・ギルドの受付嬢が駄目駄目なのも原因ではあるけれど。
「ネーベルに何か用があるのか?」
「はい、防寒具の依頼をしようかと。一通り見たんですが、ヴェントでは思うようなものが手に入りそうにないので。ネーベルに依頼することにしたんです。ネーベルは老舗が多いので、一番確実なんです。フォレボワの武具屋さんもかなりの腕前なんですが、アレなので諦めました」
まあ、良く考えればつい最近まで普通の農村だったヴェントに凄腕の武具屋は居ないのが自然だろう。来る冒険者は熟練で、現地調達を期待しないだろうし。
フォレボワについては変人がいただけなのだ。
「まあ、その辺はシャルロッテたちの方が詳しいだろうし、任す」
「はい、任せてください」
俺たちが雑談をしながら鳩を飛ばしていると、受付嬢が許可証を持ってきた。
許可証と言っても、迷宮入り口のトラップを無効化するアイテムである。俺とナスターシヤは必要ないので、四つを受け取る。
「じゃあ、行ってらっしゃいって、ヴェントは地下迷宮だから気をつけてね」
ばいばいと、受付嬢が手を振る。
頭が机にくっついていなければ、普通だったのに、とことん残念な受付嬢である。多分、敗因はこのあたりだと思うのだが、触れない。
「地下迷宮ですか」
「どうしんたんだ?」
ぽつりと、シャルロッテが困ったように呟くので、訊ねる。
「いえ、私だけ暗視持ちじゃないので、ランタンが要るんですよね」
言われて、気がつく。
そう言えば、暗視を持つ属性は闇・光・土だ。俺たちのなかでは水・風のシャルロッテだけが暗視を持っていない。
「じゃあ、三つくらい持っておくか。ひとつはシャルロッテで、残りは誰かに持たせておけばいい」
「すみません」
「いや、気がつかなくて悪かったな」
このまま道具屋によるかなどと考えていた俺は忘れていたのだ。浪費癖のアリスにシャドウ・バインドをかけずにギルドに来ていたことを。
あまりの消費金額に、俺の蹴りがアリスに決まったのは言うまでもない。




