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はぐれラピッド・ボア狩りは、欲望に忠実な三名によって、五頭が犠牲になった。
暁が眩しい現在、俺の目の前のポップラの切り株の上にはラピッド・ボアのバーグが並んでいる。
尚、なんで真夜中の見回りに調理器具を持ってきていたのかは、スルーすることにした。これ以上正気をがりがり削りたくはない。
「さあ、あたしの愛とか愛とか愛をこねたバーグをどうぞ」
徹夜のテンションではなく、通常運転のマルガレーテがフォークを向けてくる。だから、やめろください。本当にマジで。
「おおー。これはカップルっぽいね!ねぇ、エっちゃん」
「おやおや、アベックかい?そのなんだ、ほらよっと」
何故、Mまで顔を赤らめながら、フォークを向けてくるんだ。
「そういえば、Mさんはマルガレーテの王子様の内縁の妻だったけ」
ぼそっと、呟いたマルガレーテは納得する。お前も、なんで普通に納得しているんだ。シャルロッテとナスターシヤがやらかしたときにも思ったが。
「っは!わたしも許嫁だった!!」
思い出したとばかりにアリスも真似をしてくる。
自分の取り分が減ってしまうと、苦渋の表情を浮かべるくらいならば、やるなと言いたい。
「もう、お前ら三人で食べさせあってろ」
徹夜明けにボリュームたっぷりのバーグは現実問題、結構キツいかったりするのだ。
「はい、シャルロッテに用意してもらった胃凭れに効く薬草です」
げっそりしていると、横からマルガレーテが薬草を差し出してきた。本当に絶妙なタイミングで気が利くやつである。
「アリスさんとMさんは……」
「あ、へーきだから要らないよ!」
「あたいも平気だ!!」
だろうと思った。
こいつらの胃袋は本当にどうなっているんだろうか。
「ところで、マルガレーテの王子様、昼間の見回りはどうします?一通り調べて、大丈夫そうですけど」
「子供が遊んでいるのが不安なんだよな」
「なら、シャルロッテとナスターシヤちゃんが見回ってくれると思います。それから、アリスさんとMさんは放っておいても見回ると思いますよ。キッシュを仄めかしておいたので」
感心しかけていた俺は、むせた。
おい、なに食い物でアリスとMを釣っているんだ。マルガレーテの誘導に釣られてくれるのが一番平和だったりするけれども。
「なので、昼間は仮眠を取って、最終日の今晩に体力を温存しましょう!!」
「そこなのか?!やっぱり、そこにいきつくのか?!」
「大丈夫ですよー!今晩はあたしたち以外は、きっと熟睡ですからー」
「大丈夫じゃねーよ?!」
ナニこの子、怖いんだが。
「それじゃあ、あたしたちはシャルロッテたちと交代ですねー」
「あ、交代するんだ!肉の確保はわたしたちに任せてね!」
「じゃあ、ケロの字たちも後で」
そして、俺を他所に何故か決まっていく。お前ら、覚えてろよと心の中で言ったのだった。




