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日没後、俺はヴェント郊外にいた。
夕食のニョッキを大量に所持したアリスとMが楽しそうに前を行く。
ここに来るまでの、町の自由な風紀については見なかったことにする。
「もう、マルガレーテの王子様!もっと、じっくり、しっとり、ねっとり過ごしましょう!!」
くねくねと忙しいマルガレーテは言いつつも、ちゃんと探索スキルで周囲を探っているあたりはさすがだ。
「クロ助!お肉じゃなくて、モンスターいないね。残念」
「夜食に食べたいんだけどねぇ」
おい、大食い二名。お前ら、まだ食う気か。こいつら、結局、二人して、俺が一掃してきたラピッド・ボアの三分の二は消費しやがった。肉の出所が俺なので、食費を請求されることはなかったのが救いだ。
そんなアリスとMはすっかりラピッド・ボアの味を気に入ったようで、目が血走っている。受付嬢とは違う意味で、今晩は狩る気満々だ。
「ここは若い二人に任せて、あたしたちは夫婦水入らずで、愛を囁くべきだと思います。月が綺麗で死んでも良いです!!」
「おい、落ち着け」
周囲に危険がないと分かると、腕装備化してくる。動き難い。
「おお、あったかそうだね!!」
「懐かしいねぇ。おしくらまんじゅうといこうか!!」
アリスとMは考えてから口を開け、と言うか、こっち来るな。火属性二名のおしくらまんじゅうは洒落にならない。
「マルガレーテ、今すぐ離れろ。命的にやばい」
「マルガレーテの王子様のそう言うところを愛しちゃってます!!イキロです」
色々察したマルガレーテが風属性の素早さで離れる。
次の瞬間、猪の勢いでやってきたアリスとMに体当たりされた俺は、半分意識を飛ばしたと言うか、赤ゲージあたりまでHPを持っていかれた。こいつらに手加減なんてない。
何故身内に瀕死にされなければならないのだろうか。敵はすぐ側にいたのか。などと色々思考が壊れだした辺りで、急に開放された。
「あれは、昼間に出てきたのが逸れたみたいですね。一匹だけいます」
マルガレーテが遥か彼方を示せば、既にアリスとMが襲い掛かっていた。どちらがモンアスターか考えてはいけない。
「肉ぅううううう!!」
「食べさせろぉおおおお」
アリスとMの迫力にはぐれラピッド・ボアが逃げ腰なのが、色々酷い。Mにいたっては咆哮に近いので、ますます、どちらがモンスターだという気になる。
「良いんですか?アリスさんとMさんに任せると、ひき肉になりそうですよね。あたしはバーグが好きなので良いですけど」
「ニョッキとはあいそうだな」
バーグもありかと考えていると、マルガレーテがいつの間にかアリスとMに混じっていた。
「これ、斃したら、あたしがバーグ作ります!!もう愛をこねまくって!!」
俺は心ひそかにラピッド・ボアに合掌した。




