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町に戻ると、そこは焼肉会場だった。
おそらく、郊外で斃したラピッド・ボアの肉を午前中のから堪能していたのであろう光景が広がっていた。
この人たちに危機感はないのだろうか。
「あ、おまふぉはん。よふぁれへるふぉ。ありふぁふぉう」
肉塊を頬張りながら、受付嬢が言う。どうあっても、ギルドを開ける気はないようだ。
なお、発言に関しては、何を言っているのか分からなかったので、スルーした。
「……あっち」
げんなり、宿屋に戻ろうとしたとき、ナスターシヤにローブの裾を掴まれた。
嫌な予感しかしないが、そちらを向いて後悔する。
“ヴェント大食い大会”
などと子供の手書きでかかれた横断幕のしたで、アリスとMが一騎打ちをしていたのだ。つまれたラピッド・ボアの骨が最早ホラーだった。
しかし、町の人たちは大盛り上がりである。
「赤い嬢ちゃんに、100」
「じゃあ、金色のに200いっとくか」
しかも、賭博で。
どうしよう、この町自体が手遅れ過ぎる。
「……平和ボケ」
的確な言葉をナスターシヤがくれる。
「ああ、ジョルジェットさん!今晩はワシとどうですかな?」
「おい、抜け駆けするんじゃない。ジョルジェットたんはワシと過ごすんじゃ!!」
そして、後方でどうでも良くはないが、関わりたくない言い争いが勃発している。切実な突っ込み不足だ。
「お疲れ様です。アリスさんから聞いています」
「マルガレーテの王子様、はい、あーんしてくださいな」
ふと、宿屋前に待機していたのだろう、シャルロッテとマルガレーテが俺に気がついて、よってくる。マルガレーテの手には皿があった。どうやら、俺とナスターシヤの分をよけていてくれたらしい。
「はい、ナスターシヤちゃんはこっちね」
マルガレーテはひょいっと、小さめの皿をナスターシヤに渡すと、肉の刺さったフォークを俺に向けてくる。やめろください。
「……ありがとう」
ナスターシヤは満足そうに肉をもぐもぐ食べるだけだし、シャルロッテはにこにこ見ているだけだ。
逃げ場がない。
「あのな、じぶ……」
言いかけたところで、土属性の器用さと風属性の素早さを生かした絶妙の間で、口に突っ込まれた。
こうなったら、おとなしく食べるしかない。
「もう、マルガレーテの王子様ったら、テレやさんなんですからー。あたしたちが愛し合った夫婦だってのは周知の事実なんですから、もっと堂々とイチャついちゃってください」
「おい」
「そう言えば、私とナスターシヤちゃんはクラウディオさんの配偶者なんでした」
はっとした顔で、シャルロッテが言うと、マルガレーテからフォークを借りて、肉を差し出してくる。おい、天然、なにやってんだ。マルガレーテも、自称妻ならこいつを止めろ。
しかし、口にだせば、更にカオスな事態が待っているだけなので、沈黙を貫く。
「……あーん」
そして、俺の挌闘を全力するーのナスターシヤが真似をす。これどう収拾つけるんだ。
「あああああああ、リア充が見せつけてくる!!やけ食いよぉおおおおおおお!!」
更に、受付嬢が発狂したあたりで考えるのはやめた。とりあえず、肉は美味しくいただいた。




