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フォレボワの武具屋は非常にこじんまりとしている。そう、こじんまりとしているだけで、鶏小屋のなれのハテなんかじゃない。
「マリアさーん!!来たよー!!」
アリスが思いっきり戸をあけると、その戸が外れたが、ちゃんと開店中の店である。
「あららら、元気良いねぇ、アリスちゃんとクロロホルム君」
「……クロードです」
「ごめんごめん、クロロアセトフェノン君」
何故か悪化した。
これ以上酷くなる前に俺は店内を物色する。
背後でシャルロッテが気の毒そうな顔をしているが、この件に関してはお前も同罪だ。まともじゃないマルガレーテが一番まともなのかと、一瞬血迷ったが、やっぱりまともじゃない。
「そうそう、アリスちゃん」
「はい?」
「また、賭博やったでしょう?」
いしししと笑うマリアさんも受付嬢同様に三十路越えだが、こっちは普通に年相応の色っぽさがある。
「むー、なんで分かったんですか?」
「じゃじゃじゃじゃーん!!」
謎の効果音を口で言って、マリアさんは剣を取り出した。
髑髏がこれでもかと彫られた柄は全く見覚えがない。アリスもぽかんとしている。
「なんと、今朝、アリスちゃんの剣が売られたのよね!改造してみた!」
「……原型ないな」
「あ、本当だ!刃に『アリス』って書いてある!!」
「おっと、危ない!」
アリスが先に触れようとした瞬間、マリアさんが止める。
「シャドウ・ヴァイパーの濃縮毒仕込んだから、触ると死んじゃうのよね」
「な、もん作んなよ!!」
「残念ながら、モンスターには攻撃入らないのよねぇ」
「マジ、余計な改造だな!」
純土属性のこの武具屋は器用さを生かした改造を好むが、嗜好が特殊すぎていらないことばかりやってくれる。
「でも、クロ助、これ、カッコいいよ?」
「あ、やっぱり、アリスちゃんは分かってくれる?」
などと、言い出した辺りで、やたらおとなしいシャルロッテとマルガレーテに視線を移す。そして、この場から立ち去りたくなった。
普通に闇耐性ローブを選ぶ、シャルロッテは良い。問題はマルガレーテだ。際どいビキニアーマーを真剣に選んでいる。背筋が凍る。
「あ、マルガレーテの王子様!!セクシーなのと、エロいのと、どエロいのと、どっちが好みですかー?」
「フルメイルでも着とけ!!」
「あたし、アサシンだから、フルメイルは着れませんよー?あ、何も着るなってことかしら?やだぁ、マルガレーテの王子様ったら、積極的なんだからぁ。いやん」
おい。そこ、顔を赤らめるな。
俺が唖然としていると、気が付いたシャルロッテがそそそとマルガレーテの側にやって来て、友人の手元にある、防具としての仕事を放棄しているアーマーを取り上げる。でかした、シャルロッテ。
「もう、駄目ですよ、マルガレーテちゃん。痴女になって良いのは夜間だけです!!」
「いや、夜間も駄目だろ!!」
「そっか。マルガレーテの王子様、夜まで待ってくださいね!」
「待つか!!」
げっそり疲れていると、ローブの袖を引かれた。もしかしなくともアリスである。
「クロ助ぇ、剣欲しいから、お金貸して?」
「お前、もしかしなくても、あの剣買う気だよな?」
「クロロジェフェニルアルシン君、私の力作買って?」
無駄にマリアさんが援護射撃を開始する。この手の物騒なガラクタを欲しがるのはアリスぐらいだからだろう。
「あのな……」
「ねえ、クロ助ぇ」
「ねえ、クロムモリブデン君」
「…………」
負けた。これは負けた。
俺は金の入った袋を取り出す。
「やったー!!」
「まいどー!!」
「……覚えてろよ」
俺はギロリとアリスを睨んだ。
その後、闇耐性装備を整えたシャルロッテとマルガレーテとともに、ひとまず宿屋に戻ることにした。