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仕度を終えた後、ヴェント郊外の畑に行くと、昨夜の子供たちが車座になっていた。
こんなだだっ広い所でなにをやっているのかと思えば、ポーカーをやっていた。元凶は考えるまでもなく、アリスである。
「おい。子供になんてこと教えてんだよ?!」
「でもでも、後半はわたしも負けるくらい強くなったんだよ?」
それはそれで大問題だろう。こいつの知能が。
俺は嘆息すると、子供たちの輪に混じって、切り上げ時を伺うことにする。
「……ナスターシヤも」
切り上げるどころか、ナスターシヤの参加にますます盛り上がる。あれだ、同年代で遊ぶのは良いことだ。
「わたしも!!」
「お前は待て!!」
本格的に収拾がつかなくなる。今もついていないけれど。
「ふらっしゅ」
「……フルハウス」
「しゅとれーとふらっちゅ」
聞いていれば、こいつら地味に結構強い。アリスじゃ勝てないってか、どうなってんだ、ヴェントの子供。
それにしても、どうしてくれよう。これでは周辺の調査なんぞできそうにない。
そもそも、こんな屋外でカードゲームをするなよ。
「アリス、お前は周辺を歩いて、なんか生き物がいないか見て来い」
本当は俺が行きたいのだが、アリスに子供たちの監督を任せるのは色々不安しかない。
アリスは名残惜しそうに子供たちを眺めると、とぼとぼ周辺の探索を開始する。子供たちが遊びに来ているくらいなので、危険な場所ではないのは確かだろう。
俺は止め時を失ったポーカーを眺める。
表情筋が仕事を放棄しているナスターシヤも楽しそうに混じっている。アリス、M相手に無敗なだけあって、意外とヴェントの子供たちと遜色ない勝負をしている。最近の子供は怖い。ナスターシヤを最近の子供と言い切って良いのかは不明だが。
「くぅうろすぅけぇええええ!!!」
アリスが立ち去って数分で、それも終わる。
大声で叫びながら駆け戻るアリスにただならぬモノを感じ取ってしまった。
「どうした?」
「いたの!!モンスターが!!」
そこっとアリスが遠方を指す。
パッと見普通の猪にしか見えないが、スキル技でポプラの木を倒したので、モンスターの方だ。
確か、リストにあった、猪系のラピッド・ボアだろう。尚、受付嬢のものと思われる筆跡で
『こいつ結構美味しい』
と、あった。
「アリス、それ、多分ラピッド・ボアだ。結構旨いらしい」
ただし、風・土属性のため、近接には厳しい敵でもある。
「昼ごはんまでのツナギだね!!」
「お前はここで、こいつらを頼む」
「了解!!」
こういう状況ならば、アリスは頼もしい。
こちらの様子に気付かずポーカーを続ける子供たちを任せると、俺はスキルをかけられる距離まで忍び寄る。
闇属性の奇襲を使い、先手を取るとドレインで仕留める。おそらく、ラピッド・ボアは自身になにがあったのかすら分からなかったはずだ。
一頭しとめ、他にはと更に向こうを見て、絶句してしまった。
なんで、迷宮外に何十頭もいるんだ。
アリスを呼ぶべきか考え、奇襲の方を取った。
音もなく近寄ると、次々倒していく。かなり地味だ。
粗方倒しきると、急いで子供たちのところへ戻る。
愛剣に手をかけた状態で警戒していたアリスが、力を抜いた。
「お疲れー!!」
「ああ」
俺は、ふと嫌な想像をしてしまった。
「なあ、ここにラピッド・ボアが居たのって」
「んーほら、モンスターいっぱいになると溢れるとかいうやつ」
「だよな?」
もともと、ヴェントの迷宮は入る冒険者が少ない。そこにきて、この冬至の祭りだ。
ただ、問題なのは、普通、数日くらいでモンスターが溢れるくらいに湧かないということだろうか。
フォレボワだと、一回乱獲した後は暫く間隔をあけなければいけないくらいのペースで湧く。
「思ったんだが、あいつらが沸くペースって、早くなってるんじゃないのか?」
「どういうこと?」
「迷宮内に街があるネーベルだと、それこそ普通の害獣並みの頻度で、フォレボワになると害虫並みくらいか?」
多分、シャルロッテに聞くのが一番いいのだが、別行動中だ。
「ナスターシヤ、良いか?」
「……いい」
丁度勝負がついたタイミングでナスターシヤを呼べば、とことこ近づいてくる。
「アリス、その子供たちを町まで頼む。あと、シャルロッテにギルド申請を頼むと伝えてくれ」
「いいよ!!でも、ナっちゃんは?」
「ナスターシヤはヴェントの迷宮の土地勘があるし、マルガレーテほどじゃないが探索スキルが使えるから同行してもらおうと思っている」
良いかとナスターシヤに問いかければ、何故か嬉しそうに頷かれた。やっぱり無表情で。
「じゃあ、わたしは子供の護衛と伝言を頑張るよ!!クロ助もナっちゃんも頑張れ」
ラピッド・ボアの出現に色々察してくれたらしいアリスが頼もしく言う。
俺とナスターシヤはヴェントの迷宮に急いだ。




