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旅の疲れもあり、部屋に戻ると早々に寝ることにした。
アリス、M、ナスターシヤがブラックジャックで盛り上がったり、マルガレーテが俺の布団に潜り込んだりといったことはあるものの、特に問題なく寝入った。
「わわわわわ!!わたし五十連敗だよ!!」
「……ナスターシヤ、得意」
「あたいの運命の一枚、どうだぁああああ!!」
などを子守唄だと思って意地でも寝た。
「さあさあ、あたしの柔肌で暖めます!!」
「朝が寒いので、私もそっちに行って良いですか?」
これも全力スルーで寝た。
そうして、夜中だろうか。
物音に目を覚ました。
俺の布団に群がるマルガレーテ、シャルロッテ、M、ナスターシヤはこの際無視するとしてだ。
「なにやってんだ?アリス」
物音の正体である、荷物をあさるアリスに声をかける。
「あ、クロ助、ちょうど良かった!!」
こいつに低音量は無縁のため、大声でのたまった。他メンバーが結構図太い神経の持ち主ばかりなので、起す心配がないのが救いである。
「あのな、夜中に大声はやめろって」
「そんなことより、小麦粉ってどこだっけ?」
「…………おい」
これ、絶対に粉塵爆発やらかす流れだ。
こいつが深夜に夜食を作ろうと酒場を半壊させたのは、俺のトラウマの一つでもある。あれ、吹き飛ばし方を間違ったら、確実に死んでいた。
「リベンジでスコーン作ろうと思ったんだよ」
「思うな」
「うう、でも、お母さんが言ってたんだよ?一生一緒に居ようと思ったら、胃袋掴めって!お父さんのキッシュに胃袋鷲掴みにされて結婚したって言ってたんだよ!」
マーガレットさん、なにやってんだアノ人。確かにロレンスさんの料理は旨いけど。じゃなくって、アリスになんてこと吹き込んでんだ。
「貸せ。軽量やら俺がやるから、お前は焼き加減を見張る係りな」
アリスなりに思うことがあっての行動なので、頭から否定できない。これが考えなしならば力技で阻止できたのだが。
「クロ助!!」
俺が荷物から小麦粉やバターを取り出していると、アリスが飛びついてきた。やっぱり、部屋に転がしておいた方が良い気がしてきた。
めぼしい材料をそろえてキッチンに行けば、なるほど、ヴェントの子供たちが結構好き勝手過ごしていた。
祖母が置いていたのだろうラスクを食べていたり、雑魚寝をしていたりフリーダムだ。
子供は日没以降の外出を禁止されていることを考えれば、俺たちが部屋に戻った頃、入れ違いのように来たのだろう。
「あ、おねえちゃん。なにかつくるの?」
ラスクを食べていた五歳くらいの幼女がキラキラした目でアリスの手元を見ながら言った。だまされるな幼女、そいつが作るのは攻撃アイテム的な料理だ。
「にーちゃも?つくりゅ?」
幼女のチュニックの裾を握っていた三歳くらいの少年も興味深そうに俺に視線を向けてくる。
「ちょっと多目に作るか」
「おおー。クロ助やる気まんまんだね!!」
子供にキラキラした目をされれば、頑張るしかないだろう。
大食いアリスとMがいるのでもともと大量生産予定だったのだ。寝ている子供の分も含めて六人分の追加は誤差の範囲だ。
「今から、スコーン作るんだ。いい子で待ってな」
「うん」
「まちゅー」
幼女と少年の頭をそれぞれ左右の手で撫でると俺は軽量に取り掛かる。
結局、子供と遊び出したアリスのせいで、一人でスコーンの大量生産をするはめになったのだが、妨害されなかったことを喜ぶべきなのか、本気で考えてしまった。




