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闇属性僧侶のあんまり平穏じゃない日常  作者: 水可木
六章 迷宮と冬至の祭
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 予定外の食事の後、キッチンにやってきた祖母に、勝手に夕飯を食べたことを報告した。

「ああ、勝手に使ってくれて構わないからね。ああ、そうそう、ヴェントの子供もみんな勝手に使っていくから驚かないでおくれ」

 などと、どこからつっこんで良いのかわからないことを言ってくれた。

「夕飯をたかりに来ました……じゃなくって、手伝いに来ましたー」

 しかし、それも受付嬢の登場にどうでも良くなる。

 どうでも良くないが、心の声が駄々漏れだ。

「あの、ウナギのゼリー寄せ、少しとっておいたので、いかがですか?アリスさんとマルガレーテちゃんと私の合作です」

 はいっとシャルロッテが小皿に取り分けていたものを持ってくる。確かに合作だが、アリスは台無し担当だ。作った人数に含めては駄目だろう。

「おやおや、おいしそうだねぇ」

「あ、アリスさん、使ってくれたんだ!」

 嬉しそうな祖母を見て、突っ込みは抑える。場を白けさせたくはない。それに、アリスも嬉しそうににこにこ藁っている。これを曇らすのは俺だって良心が痛む。

 ただし、受付嬢、お前は絶許ぜつゆるである。

「頼むんで、こいつに食材をあたえないでください」

「あああああああ“こいつ”って、なんなの?!うらやましい!!リア充に塩を送る善行はきっと報われるはずよ!!そう、今年はぁあああ」

 変な地雷を踏んだようだ。

 奇声を発する受付嬢に戸惑うと言うより、全力でひく。

「アンジェリカちゃん。落ち着きなさい」

 慣れているのか、祖母がぽんぽんと受付嬢の頭を撫でる。すると、こちらもパブロフの犬よろしく、ぴたっと自動停止する。この受付嬢の過去の所業がうかがえた。

「ああ、千人斬りのデュマさんにアドバイスを貰わなければ」

 さらっと、とんんでもないこと暴露しやがった。

 思わず祖母の方を見れば、どこか誇らしそうである。

「あの頃は若かったからねぇ」

 孫として、その武勇伝は聞きたくない。正気が異常な速度で削れていっている。ちょっと、控えてくれないと狂気に襲われそうだ。

「ところで、ヴェントの子供が勝手にキッチンを使っていくというのは?」

 空気を読まないシャルロッテが良い方向に空気を読まない発言をくれる。

「そうそう、あたしも気になりましたー」

 援護射撃とばかりにマルガレーテも言う。こいつは読んだ上で言っている。

「どうって?あ、そっか、みんなヴェント初めてなんだっけ?」

 受付嬢が首をかしげた後、一人納得する。

「んー、ヴェントの子供って村全体の子供って感じなの。母親はともかく、父親なんてさっぱりだし」

「村全体って?フォレボワもそうだよね?クロ助とか特に」

「まあ、置いてけぼりくらった子供を普通に育ててくれるぶんには」

 そういえば、両親がいないことで不自由した覚えがない。その意味ではフォレボワも地域で子供を育ててくれる町だ。

「そうなんだけど、ヴェントは、産んだ後、その辺に置いとくと、気がついた人が勝手に授乳してくれたりするの」

「え?は?」

 おい、フリーダム過ぎるだろう。なにその斬新な教育方針。

「なるほど、この時期から計算すると、乳飲み子を外に放置しても大丈夫な気候ですね」

 うんうんと納得するシャルロッテだが、そこ、納得しちゃ駄目だろう。

「あっちこっちの家で世話してもらうから、村全体の子なの」

 どうしよう、駄目だこの町。

「あのー。姓はどうしてるんですか?」

 マルガレーテが結構マトモなことを言う。確かに俺も気になる。

「ああ、それは親っぽい人の姓を登録するの。まあ、適当ね」

 もうやだこの町。

 俺が精神的にダメージを食らっていると、受付嬢はあわてた様子で出て行った。

 本当に何しに来たんだ。あの人。

「ふふ、久々ににぎやかで楽しいわぁ」

 うん、祖母が楽しそうなのでよしとしよう。自分に言い聞かせるくらいには、色々磨り減っていた。


 

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