53
一通り、地図とリストに目を通せば、夕暮れ時になっていた。
「夕っご飯!!夕っご飯!!」
座談だけしかしていないというのに、何故か空腹を訴えるアリスは、変なリズムをつけながら言うと、いそいそとキッチンへ向かう。
夕食が有る限り、外出なんてしないだろうから好きにさせる。
「夕飯はなんだろうね」
M、お前もか。
Mも浮かれ気分でキッチンへ行く。食い気多すぎだろう。
「うう、マルガレーテの王子様の愛妻として、今のプロポーションを維持したいですけど。ただし、胸除く。ヴェントの料理も美味しいんですよねぇ」
「私はヴェントの料理だと、ニョッキが好きです。お芋を使うんですけど、クラウディオさんは食べたことがありますか?」
「……ナスターシヤ、パンナ・コッタ」
そして、こいつらも自由だ。
「残念ながら、フォレボワ以外の料理には縁がなくてな」
そう言えば、ロレンスさんは基本的にフォレボワの家庭料理ばかり作っていたな。そもそも唯一の宿屋なので、外からの客にはフォレボワ料理の需要しかなかったんだろうけど。
「それなら、おばあさまに沢山作ってもらえば良いですよ。きっと、お孫さんから、手料理を所望されるのは嬉しいことだと思います」
「はいはい!!あたしもシャルロッテも作り方を覚えられるので、良い事ずくめです!!」
まあ、そんなこんなで和んでいた。
「ケロの字!!!」
叫びながら、Mが駆け込んでくるまでは。
「嫌な予感しかしないが、アリスがナニやらかしたんだ?」
普通に考えて、元凶はアリスだろう。
「あたい、アレ食べられないよ!!」
「……おい、あの馬鹿はナニを作りやがったんだ?」
アリスに料理をさせると、十割の確立で味も見た目も前衛的な物体を創造してくれる。アレを食い物と呼ぶのに俺は抵抗しかない。
「あれ?エっちゃん、どうしたの?」
ひょこっと現れたアリスの手元を見て、俺たちは硬直した。
そこにあったのは、紫色のまがまがしいゼリー状の何かに、ぶつ切りの細長い黒い物体が突き刺さった謎のアイテムだった。
「これは、ああ、ウナギのゼリー寄せですね。色々アレンジされた見た目ですが」
料理名はシャルロッテが当てた。
もともとウナギのゼリー寄せ自体の見た目がグロいのだが、アリスの持っているモノは、普通のウナギのゼリー寄せが綺麗に見えるくらい別物の何かだった。モザイク必須のグロさに、俺はナスターシヤの目を隠してやった。絶対にトラウマになる。
「おおー。シャル子凄い。そうだよ!!何かね、受付嬢がウナギくれたの!!」
そして、いらないことをやらかす受付嬢は、だから引っ掛けられないんだと愚痴ってしまいたい。祭に行ったんじゃなかったのかよ。
「味は多分、大丈夫!!」
「じゃねぇよ!!ウナギがナマだろ!!」
味以前の問題だ。
「うう、オーブンで焼いてくる」
「来るな!!」
もっと酷いことになる未来しか見えない。
「あの、私たちが手直ししてきます」
この大惨事に救いの手を差し伸べたのはシャルロッテだった。
ひょいっと、アリスから謎の物体を取り上げると、マルガレーテとともに、キッチンへ消える。
その後、シャルロッテとマルガレーテが普通のウナギのゼリー寄せに練成しなおしてくれたものを食べた。玄関先におかれたスッポンについては、後日、ギルドに返却することにした。




