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荷物を置いて、リビングに向かうと、アリスとMが涎を拭うのも忘れてキッチンの方を凝視していた。そのキッチンでは、祖母とシャルロッテとマルガレーテがいそいそとピッツアをオーブンで焼いている。
ナスターシヤはイスに座って、攻略本もどきを読んでいた。
「あ、お孫さん、良かった」
ギルドの受付嬢がいる以上、ギルド行きをどうしようかと思案していると、向こうから声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「するのよね。今日からヴェントは冬至祭で、ギルドも三日間お休みなの」
てへぺろと、多分ここに来て真っ先に言うべきことをのたまった。
それにしても、年相応の外見の三十路女性の「てへぺろ」は最早、精神攻撃だ。
「ソウナンデスカ」
この人も結構濃いこもしれないと、悟りかけていたが、はたっと気がつく。
「冬至って、まだ先ですよね?」
今は刈入れが終わって、どちらかと言えば豊穣祭の時期である。冬至はまだまだ先のはずだ。
「ああ、それね。ヴェントの冬至はちょっとアレでね。本当に冬至の頃にやると凍死者出すから、今の時期にやってるの」
「いや、アレすぎるだろう?!」
本来冬至祭は健康を願う祭だ。少なくともフォレボワでは。それが、普通にやったら凍死者出すって、どんな祭になってんだ。
「ヴェントの冬至祭は子孫繁栄だからね?あ、この期間、日没後は子供は外出禁止だから気をつけてね」
「は?子孫繁栄で子供の外出禁止って……」
「ああ、外でやるからねぇ。若いっていいわねぇ」
「ちょっ?え?は?」
嫌な予感しかしない。
「だから、ヴェントって、みんな生まれ月大抵一緒なのよねぇ」
「やっぱりか?!そうなのか?!って、外でナニやってんだよ?!」
「ナニってナニね」
しれっと受付嬢が言う。
駄目だこの町。しかし、子孫繁栄の祭と聞けば、まあ。
「おい、アリス、M、三日間は夜間の外出は禁止だ」
とりあえず俺は、この面子で夜間外出しそうな賭博好き二名に注意を促す。
「へ?なんで?」
「どうしたんだい?」
「ヴェントは冬至祭なんだと」
「七面鳥でてくるかな?」
「あたいも久々に食べたいね」
こいつら駄目だ。食べることしか考えてない。
まあ、最終手段は俺のスキルで部屋に転がしておけば良いか。
「ふふふ、じゃあ、あとでギルドからの差し入れでマムシとウナギを持ってきてあげるわね」
「要りません!!」
「あら、若いのねぇ」
「この会話をやめましょう」
せめても救いはマルガレーテがキッチンにいることだった。これ、マルガレーテが同席していたら、収集つかない事態になっていた確信がある。
「そう?じゃあ、ヴェントの迷宮の地図とモンスターリストをどうぞ」
はいっと渡してくる。
これも真っ先に提示すべきモノだろう。
「俺の方はギルドが開いてからの方がいいですか?」
「あ、そうしてくれる?実はこれから、忙しいのよね!今年こそは落とさなきゃいけないから」
ナニを落とすのかは聞かない。
俺が脱力しきった頃、薄目のピッツアを持って、祖母たちがやってきた。




