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「デュマさん、お手伝いに来ましたって、遅かったか」
俺が正気をガリガリ削っていると、唐突に誰かが割り込む。
戸口を見れば、純土属性の三十路女性が駆け込んで来ていた。着ている服が、フォレボワ・ギルドの受付嬢と同じなので、ヴェント・ギルドの受付嬢なのだろう。
「どうも、フォレボワから連絡もらってるから、安心してちょうだいね」
筋骨隆々じゃない受付嬢に俺とアリスは思わずジロジロ見てしまった。うん、普通の三十路女性だ。
そんな俺たちの様子を不安からかと勘違いした受付嬢が、安心させるように明るい笑顔を浮かべる。結構失礼なことを考えていただけに、申し訳ない。
「おやおや、アンジェリカちゃんじゃないかい」
「お孫さんが来られるってことで、手伝いに来たんです」
どうやら、俺が孫であることはギルドの連絡で知らされたようだ。つい最近まで、置き忘れたことどころか、存在自体失念していた俺の両親が伝えているはずもないので、当然といえば当然の情報源だろう。
「そうかい。あの子たちが帰ってから、困っていたから助かるよ」
あの子たちは勿論、俺の両親のことだろう。
「ああ、宿屋の経営はもともとデュマさんのお子さんが始めたのよ。突然フォレボワに戻られてしまったので、冒険者がいるときはギルドが手伝うことにしているの」
「両親がすみません」
ついていけない俺たちのために受付嬢が説明してくれたが、物凄い居た堪れなさだ。
あのボンクラ両親はどれだけ人に迷惑をかければ良いのだろう。
「それじゃあ、あとはアンジェリカちゃんに任そうかね。コルンバーノ、美味しいピイッツアを焼いてあげるから、お待ちよ」
「あ、わたし五枚くらいいけます!!」
「あたいも同じくらいで!!」
「おい!!」
どこからつっこもうかと思っていると、大食い二名がなにやら勝手にリクエストをしやがった。
「それなら、私は手伝いますね」
「はいはいはいはい!!マルガレーテの王子様の愛妻として、あたしも手伝いますよ!!」
どいつもこいつも無駄に順応性が高すぎる。
「そう言えば、デュマさんの家族なら、宿屋料金取れないなぁ」
俺がげっそりしていると、受付嬢がぽつりとそんなことを呟く。
耳ざとく聞きつけたPTメンバーどもは、一瞬互いに目配せをして、受付嬢に近寄る。
「あ、わたし、クロ助の許嫁な気がしてきた!!」
「あたいはケロの字とは内縁だった気がするんだ!」
「じゃあ、私はクラウディオさんの配偶者でお願いします」
「……ナスターシヤも」
ちょっとまて。
これ、俺が人でなしみたいじゃないか。
「あら、そうなの?大家族ね」
そして、あっさり納得するな、受付嬢。「気がする」だとか「じゃあ」の時点でおかしいだろうが。
「もう、それで良いです。俺、荷物置きたいので案内してもらって良いですか?」
宿屋代がいらないので良しとするとして、俺は受付嬢に訊ねた。受付嬢はにっこりと笑うと、案内してくれた。
六人で一部屋だったのは、確実にあいつらのせいである。




