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ヴェントへは受付嬢が手配してくれた馬車で向かった。
見送りに来たウィンザー夫妻の晴れ晴れとした笑顔が印象的だった。
PTメンバー中過半数が旅慣れていると、問題らしい問題もなく、ヴェントに辿りついた。
ヴェントもフォレボワ同様にもともと田舎の農村である。のどかな田園風景がと形容したいところだが、刈入れが終わって、殺風景な景色が広がっていた。来る時期を間違えた感が半端ない殺伐さである。
観光で来た訳ではないのでマシだけれども。
「ヴェントの宿屋は入り口の一軒屋だぞぉ」
ふあああと御者が欠伸をしながら言った通り、ヴェントの宿屋は入り口付近にあった。
ぱっと見は普通の農家のような建物の戸に“宿屋”と書いた板が打ち付けてあった。
「これが、宿屋……」
「普通の家みたいだね!!」
俺の呟きを聞き取ったアリスが明るく言う。
「もしかしたら、外壁を変えずに中だけを改装したのかもしれません」
シャルロッテがフォローしだすくらいに、普通の農家だ。
「あ、牛が繋がれているじゃないかい」
Mが宿屋脇に繋がれた牛を発見してくれたおかげで、ますます農家度が上がる。
「……中、普通のおうち」
唯一ここに来たことがあるナスターシヤの一言で、中身も普通の農家だと確信できてしまった。
「ごめんくださーい」
俺たちがあまりの普通の家さに立ち止まっていると、マルガレーテが中に入っていく。まあ、宿屋だと書いてあるし大丈夫だろうと俺たちも中に入る。
玄関には麦の束と玉葱が吊るされていた。その脇に木製の脱穀機と糸車が置いてあった。土間の隅には機織機と、どう贔屓目に見ても普通の家である。
「マルガレーテの王子様、これ、どうしましょう?」
「どうにもならないな」
中を見渡しても、人が出てくる気配はない。
何か書かれていないか探すも、ますます一般家庭なのが知れるだけに終わる。
「……おばあちゃん、耳遠い」
ナスターシヤは言うと、とことこどこかへ歩いていく。何気にしっかりした子なので任せても大丈夫だろう。
「とりあえず、宿屋に荷物を置いたら、ギルドだな」
「フォレボワの受付嬢さんが、大抵のことを連絡してくださったので、時間は掛からないと思いますが、全員で行きますか?」
シャルロッテが訊いてくる。
「まあ、目を離したくないのがいるし、時間が掛からないなら、全員で行こう」
「もう、マルガレーテの王子様ってば、ひと時も離れたくないだなんて熱烈なんですからー」
「そうなのかい?ケロの字、そのなんだ……」
前言撤回、こいつらにサイレンスとシャドウ・バインドかけて置いていくべきだ。
「そういえば、ヴェントはパスタが美味しいらしいよ!!」
きらきらとアリスの目が輝いているが、お前、なんのためにここに来たと思っているんだ。
「おやおや、コルンバーノ、大きくなったねぇ」
ナスターシヤとともにやってきた老婆は俺を見ると、開口一番そういった。これ、完全に孫かなにかと勘違いしているだろう。
「ええっと、部屋を借りたいのですが」
「あれあれ、他人行儀だねぇ。さびしいねぇ」
しょんぼりする老婆に良心が痛む。だが、他人である。
「あ、表札にデュマってあるよ!!クロ助のあばあちゃんなんじゃないの?」
宿屋の板をはぐっていたアリスが爆弾発言をかます。なんで、俺の祖母がヴェントで宿屋やってるんだ。と言うか、俺の両親が引越ししていたりで、フォレボワ以外に親戚がいるフラグが立っていたけれども。色々納得がいかない。
「どうしたんだい?コルンバーノ」
「あの、俺、クロードです」
「はあ、そうなのかい。コルンバーノ」
「…………」
この脱力感はきっと慣れない旅の疲れに違いない。




