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「いい感じにまとまったところで、良いですかー?」
ポーカーでアリスとM相手にえげつないくらいに勝っていたマルガレーテが、絶妙なタイミングで話しかけてくる。
「どうしたんだ?」
「マルガレーテの王子様、気になったことがあるんです」
そう言いながら、腕に絡みつく必要がドコにあるのか聞きたい。いや、やめておいたほうがイロイロ安全だろう。
「変態……プリヘーリヤさん、ウダール・モールニはどれくらい言葉が通じますかー?」
おい。隠せてないぞ。思いっきり「変態」と言い切りやがった。
それはそうとして、俺もシャルロッテも気がつく。
「ナスターシヤがカタゴト気味なのって……」
「ああ、そうでした!!忘れてました!!思いっきり、文法が違いますよ」
「「「……」」」
そう言うことは、早い段階で申告するべきだろう。
「大丈夫ですよ!!コミュニケーションなんて気合があれば、なんとかなります」
「……ならない。ナスターシヤが居る」
ぬっと現れたナスターシヤもアリスとM相手に無双していた。子供にしてやられる火属性どもの知能が本気で心配になる。
「そうだな。でも、早い段階で気がついてよかった」
色々誤魔化すために、なんとか言葉をつなぐ。だが、考えが浅かったためか。
「内助の功なんて当然じゃないですかー!!あたしは、探索以外でもマルガレーテの王子様を支えます!!あとは子供を四人作れば完璧だと思います!!」
変な地雷を踏んでしまった。スルーしすぎて、地雷原を引き連れていることをすっかり失念していた。
と、言うか、マルガレーテとプリヘーリヤの変態加減はいい勝負な気もしなくもない。
「ナスターシヤ、助かるよ」
「……うん」
全力で逃げるために、ナスターシヤの頭を撫でながら言う。ナスターシヤが無表情に喜んでいるので、結果オーライだ。
「ところで、ウダール・モールニ独特の防寒着なんてありますか?」
シャルロッテが言いながら紙とペンをプリヘーリヤに渡す。
受け取ったプリヘーリヤはきょとんとシャルロッテと紙を交互に見ていたが、意図に気がついて、見たこともない服を描いていく。
「マリアさんに渡せば、復元しそうだよな」
「でも、マリアさんだと、防寒着に清涼効果とかつけそうだよね!!」
Mに負けたアリスが言いながら、プリヘーリヤの手元をじいぃっと観察しだす。
「通気性を追及はやらかしたことあったな。あの人」
ヴェントのギルドで提出して、普通の職人に作ってもらおう。フォレボワは駄目絶対だ。
「……固形燃料」
俺が静かに決意していると、ローブの裾を握ってナスターシヤが訴えてくる。
「……固形燃料要る」
「そうなのか。あいがとな」
「……うん」
兄貴よりよほどナスターシヤの方が役に立っている気がするが、指摘はしない。こんな兄貴だから、しっかりした妹になったんだろう。
「そういや、ナスターシヤは山を越えて来たんだよな」
「……おにいちゃん追いかけた。間に合わなかった」
ナスターシヤがじっとプリヘーリヤを見る。
「……おにいちゃん、一体化したい、言ってた。叶った。だから、良い」
よくよく見ると、ナスターシヤの瞳に蔑んだ色が浮かんでいる。生き別れの家族に向ける視線じゃない。まあ、浮かべたくなる心境は理解できるが。
その後、服飾どころか周辺生物などの絵を手に入れた俺たちはフォレボワの迷宮をあとにした。




