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数名にとってのトラウマを作りながらも、プリヘーリヤは図を完成させた。
「うまいもんだな」
どや顔で見せてくるのが気にならないくらいには、きれいに描かれていた。アリスとMがしきりに感心している。
「おおー。凄い。ナっちゃん兄は画家だったりする?」
キラキラした目で見つめるアリスに、プリヘーリヤがわたわたする。こいつ、人から評価されることに弱いのかもしれない。さげずまれることに快感を覚えているあたり、同情する気は湧かないが。
「いえ、地熱の研究をしていたしがない研究者です」
熱い眼差しがシャルロッテに向けられる。
「ちょっ、シャルロッテ?」
「すみません、つい」
俺をスクリーン代わりにしてくれた。マルガレーテも腕装備化しているので、俺は二人の少女にしがみつかれていることになる。
「マルガレーテの王子様、残念がらないでください!!あたしもシャルロッテもこれから育つんですから」
何が育つんだよ。との言葉はなんとか飲み込んだ。藪をつっついたらシャドウ・ヴァイパーの群れが飛び出してくるに違いない。
「つるぺた最高じゃないですか?!!」
くわっと、何故かプリヘーリヤが反応する。俺がなんのためにつっこみを控えたと思っているんだ。それ以前に結構最低なこと言ってやがる。
「おにいちゃん」
どぼごっと鈍い音がして、プリヘーリヤが崩れる。その背後には、おどろおどろしい闇を背負ったナスターシヤが仁王立ちしていた。
「茶番はこの辺りで、ちゃちゃっと説明をすすめてくれ」
「あ、はい」
俺が呆れながら言うとプリヘーリヤは切り替えて、説明を始める。自称元研究者と言うだけあって、以外にも<過去>の事象に詳しかった。
アリスとMどころか、俺の両親が睡魔に負けるころ、一通り<自然災害>とも呼ばれる<自然現象>を知らされた。
「なるほど、街を壊滅させるエネルギーがあるのならば、迷宮を生み出せるのも分かる気がします」
研究タイプの冒険者として切り替えたシャルロッテは、相槌を打ってごく自然に返す。実は研究者として、シャルロッテとプリヘーリヤは似たもの同士な気もしてきたが、言わないだけの分別が俺にはある。
「恒久的なエネルギーなので、自然消滅が望めないのが難点でしょうか」
シャルロッテの様子に研究者として嬉しがるプリヘーリヤが生き生きと話をすすめる。
「なあ、それ、下手に元に戻すと大惨事になるよな」
「あ、はい!!もちろん、ただじゃすまないと思います。実際、純属性が増えて、迷宮に対応できるのならば、むしろ、このままモンスター討伐だけしてほっとくのが一番な気もします」
俺が口を出すと、プリヘーリヤはそんな考察を教えてくれた。
それは果たして解決になっているんだろうか。
「とりあえず、この辺でギルドに掛け合うか」
俺が言うと、アリス、M、父さん、母さんがむくりと起き上がる。お前ら、どんな耳してるんだとの言葉は胸の内に無理矢理ねじ込んだ。




