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相変わらず、よい子の図説「だいちは うごいて いる」を製作中のプリヘーリヤに完成する様子は見られない。
頭を抱えてうなっている辺り、完成するのかすらあやうい。
「あのな。根をつめてもドツボにはまるだけだぞ」
休息を促すと、涙目でこっちを見てくる。ナスターシヤの方がしっかりしているってどうなんだ、この兄貴。
「クロロシスさん、お構いなく。オレ、人間じゃないんで、疲労しないんです」
おい。どっから出てきたんだ。そのクロロシスとか言う奴。
「って、人間じゃないんだな」
「迷宮の仕掛けなんで生物かも怪しんですけどね」
「おにいちゃん、もともと、人間としても駄目な部類」
おいいい。ナスターシヤがとんでもない発言をかましてくれた。目の前で妹に罵られたプリヘーリヤはどこか恍惚とした表情でがっくり這い蹲る。ああ、コレ人間としても駄目なやつだ。
「ほら、仕掛けとしてはしゃべれますし、結構イイとこいってると思うんですよね」
「お前は誰というか何と競ってんだよ?!」
「いえ、ほら、やっぱり難易度ある迷宮の仕掛けとしては、その辺が気になるわけでして」
「おにいちゃん、無駄口それくらい。さっさと仕上げて」
本当に容赦がない。
プリヘーリヤはナスターシヤに言われて、泣く泣く続きを開始する。まあ、本人が休養を必要としていないのならば、無理にさせることもない。
「マルガレーテの王子様、コレ説明が終わったあと、ナスターシヤちゃんはどうするんですかね?」
「……もちろん、帰る」
マルガレーテの言葉が聞こえていたのだろう。ナスターシヤは俺のローブを引っ張りながら言った。
じぃっと俺を見上げる瞳に迷いなどない。その潔さに兄貴は泣き崩れているが、触れないのがやさしさというものだ。
「いいのか?」
「……うん。どうせ、おにいちゃん、住む世界が違う」
これ、あの馬鹿兄貴をぼこっても許される気がするんだが。
ふと、プリヘーリヤの方を見ると、道具袋(冷凍ダズル・キャンサーでぎゅうぎゅう)で殴りかかるシャルロッテがいた。おい、キャラどこに忘れて来た。
「シャルロッテ、待て、その道具袋はやばい!!」
「軽率なのが許せないんです!!」
そう言えば、シャルロッテは迷宮入り口の馬鹿三人組に容赦なかったな。
「とりあえず、説明が終わるまで待て」
「はい」
しぶしぶシャルロッテはうなずくと、プリヘーリヤを一瞥する。おい、プリヘーリヤ、お前なんで喜ぶんだ。今のどこに喜ぶ要素があった。
「あ、そんな、ご褒美……」
「「「「……………」」」」
「ははは、どうした、四人とも」
「あらあら、クロ初号機ちゃんたち、みんなで固まって何?何?母さんも混ぜてちょうだい」
ぞぞぞぞと鳥肌が立って立ち尽くす俺、マルガレーテ、ナスターシヤ、シャルロッテに、父さんたちは
能天気に声をかける。場違いな能天気さが、時として救いになるのだと知ってしまった。
「シャルロッテ、絶対に殴るな。寧ろ近づくな!!」
「はい。ええ、もちろんです」
今度は力強くうなずくシャルロッテだが、これ絶対にトラウマになっているだろう。




