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「あの」
親子で言い合っていると、ナスターシヤの兄貴が声をかけてきた。
「純属性ですよね?」
おそるおそるナスターシヤの兄貴が言う。どれだけ純属性に恐怖心を持っているんだと、訊きたくなるビビり加減である。
「まあ、見たまんま俺たち親子は純闇属性だ……」
「うわああああああああ、だから駄目だって言ったのに!!」
俺が言い終わらないうちにナスターシヤの兄貴が喚く。
「ナっちゃんのお兄ちゃんは、愉快な人だね!!」
「お前の思考回路が愉快だな!!」
アリスの感想に突っ込みを入れていると、喚き声を聞きつけたシャルロッテ、マルガレーテ、Mが何事かと駆けつけてきた。ナスターシヤには悪いが、本当に迷惑な野郎だ。
「あの、親子と“おじ”か“おば”だったりします?」
「いや、思いっきり、父母子だが?」
「やっぱり!!こうなるじゃないかぁああああ!!」
「……うるさい」
どごっと、青年の腹から鈍い音がした。ナスターシヤが鳩尾を殴ったらしい。思わずMを見ると、誇らしそうな顔で親指を立てていた。ナスターシヤの教育は手遅れかもしれない。
「確かに煩いな。それと、何が原因で喚いているのか説明してくれ。こっちは、前提情報がないんだ」
兄貴から距離をとって、こちらにやって来たナスターシヤの頭を撫でながら言うと、青年は青い顔でこっちを見てくる。あせった表情が怖い。ナスターシヤもさっきまでの再会の余韻すら帳消しな勢いで引きだしている。
「その前に、おたくら夫婦は兄妹あるいは姉弟でもありますよね?」
「おお、良く分かったな」
「懐かしいわねぇ」
のほほんと俺の両親が答え、ナスターシヤの兄貴ががっくりうなだれる。その様子にアリスもシャルロッテ、マルガレーテ、Mも「何か問題でも?」と疑問符を浮かべる。
「純属性をつくるのが急務だったとは言え、なんのフォローもなくやったら、こうなるよな?!」
「おにいちゃん、説明、なってない」
なにやら熱くなっている兄貴をナスターシヤが絶対零度の一言でばっさり切り捨てる。この娘なにげに容赦がない。
「もう、なにから説明して良いやら」
「多分、全部の情報がないと思うぞ」
「ですよね?!」
わあああんと泣き出した。鬱陶しい。
「あのですね。オレのいた時代だと、キョウダイ間の婚姻は禁止されていたんです。理由があって」
鼻をすすりながらだが、ようやく話し出した。
「その理由は奇形児が生まれやすいとかなんですけど、純属性も生まれやすいというか、その純属性同士ならほぼ確実に純属性が生まれます」
「それの何が問題なんだ?」
純属性ばかりのフォレボワで生まれ育ち生活している俺には、ナスターシヤの兄貴が何を訴えたいのかが分からない。ふと、シャルロッテやマルガレーテを見ると、少女たちもきょとんとしているので、この場合、おかしなことを言っているのは青年の方だろう。
「そっから?!」
「どこからもなにも、言っているだろう。俺たちにはお前のいた<過去>は<存在しない>からな」
さっき全部の情報がないと教えてやったのに、何を聞いていたのだろう。
「あのですね。そもそも純属性は自然界に存在しない不自然な属性なんです」
ナスターシヤの兄貴はそう言って、過去の世界の話を語り出した。




