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道と言おうか、風穴を抜けるとそこはモンスター・ハウスだった。
ギルドの討伐依頼でも、モンスターの巣を殲滅なんぞ聞いたことがない。
「これ、マルガレーテ見つかるのか?」
「こんだけ、ブラッド・ラットいると気持ち悪いね」
「私、鼠が苦手です」
「あ、シャル子も?」
戦力外どもが、わきゃわきゃやっている。
実際問題、これがベノム・バットかシャドー・ヴァイパーの巣ならば、アリス無双で終わったのだが、ブラッド・ラットは闇属性スキルの即死攻撃のデスを持っているので、闇耐性がない二人を戦闘に参加させると、めんどくさい事になる。アリスだけならまだしも、シャルロッテも蘇生しながら戦うなど、いくら高い俺のSPもあっと言う間になくなるだろう。一応、SP吸収技のマインド・ドレインがあるが、ブラッド・ラットは闇属性モンスター最低のSP量なので、回復が期待できない。
「ったく、お前らここから動くなよ」
めんどくさいが、一掃せずにマルガレーテを探す方がめんどくさい。
俺はアリスとシャルロッテに言い置くと、腰あたりまである大鼠の群れに飛び込んだ。
一斉に襲い掛かってくるブラッド・ラットをドレインで瞬殺しながら、マルガレーテを探す。
別に巣の駆除をしに来たワケではないので、回収して、さっさとここから離れるのが一番良いだろう。
暫く、ブラッド・ラットを駆逐していると、地面に倒れている緑色のセミロングの少女を見つけた。近道(物理)で迷宮をつっきろうとする馬鹿が複数いない限り、コレがマルガレーテだろう。
さっさと少女を担ぐと、アリスとシャルロッテが待機している場所まで戻る。
行きに殲滅しながら来た分、帰りは楽に戻れた。
「マルガレーテちゃん!!」
俺に担がれた少女を見た瞬間、シャルロッテが駆け寄って来た。どうやら、マルガレーテであっていたらしい。
「とりあえず、蘇生は正規の通路に戻ってからだ」
「はい!!」
「クロ助、ごくろーさん」
ぱっと笑うシャルロッテを見た後、意味深な目で俺を見ながらアリスが言う。そのジト目は何なんだ。
マルガレーテが空けた穴を抜けた後、周囲にモンスターがいないことを確認してサモン・ソウルでマルガレーテを蘇生した。
「う……もう鼠の肉は食べられないって、はっ!」
跳ね起きた茶眼のアサシン少女は、知り合いになりたくない一言を述べてくれた。
「マルガレーテちゃん。大丈夫ですか?」
マルガレーテの手を握って心配そうなシャルロッテに悪いが、今すぐ立ち去りたい。
と、アリスに肩を叩かれた。振り返ると、頭を左右に振ってくれやがった。
「シャルロッテ、あたしを運命の口付けで起してくれた白馬の王子様はドコ?」
「あ、そうだ、助けてくれたクラウディオさんにお礼をしなきゃ駄目ですよ」
礼をしないことが礼になる例を初めて知った。
とりあえず、マルガレーテはキラキラした目で俺を見るな。
「マルガレーテの王子様」
うっとりと呟くマルガレーテに悪寒が走る。どこで変なフラグが立ったんだ。
「キャラ濃い子だね!」
「いや、お前も相当だぞ?これは、つき抜けすぎだが」
「迷宮の奥で眠れる美少女を起せるのは、運命の王子様だけなの」
「自分で美少女とか言うな!しかも、眠ってない。屍だっただろ」
「マルガレーテちゃんは乙女チックなんです」
「いや、これ、そんな生易しいモンじゃないだろ!妄想癖こじらせてるぞ?」
なんで、助けてしまったんだろうと後悔しかけるが、嬉しそうなシャルロッテとアリスを見ていると、まあ良いかと言う気もしてくる。
「それじゃあ、一旦、町に戻るぞ」
諦めの溜め息とともにそう言うと、俺は返事を待つことなく、スタスタと来た道を戻り出した。