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とりあえず、Mがあけた抜け穴あたりまで進むと、マッピングを中心に探索を再会した。
いつ、どんなモンスターが出ても良いように先頭は俺だ。その後ろを探索スキルもちのマルガレーテがついてくる。
一通り歩きまわったが、すべる床とモンスターの巣以外には特に死に繋がるようなモノはないようだった。まあ、その二つが全力投球で殺しにかかってくるので、「だけ」と言うには危険すぎるのだが。
奥まった場所にある小部屋のような場所がここのボス部屋のはずだ。
全体的に透明なので、中が丸見えるのだが、なんと言っていいのだろう。
「なあ、この中にいるのって」
「人間だね!!」
しかもうずくまってシクシク泣いている。これが疑似餌でなければ、普通の青年だ。受付嬢の人外じみた様子もない。うつむいているので、瞳の色は分からないが、髪は土属性の茶色だ。
「……おにいちゃん」
それまで、無表情だったナスターシヤが焦った表情を浮かべて、部屋に飛び込んだ。何があるのか分からないので、一瞬のアイコンタクトの後、俺とアリスがナスターシヤを追った。
「うう、もう駄目だ」
「おにいちゃん!!」
飛び込んだ部屋は今までキャンプをしてきた小部屋同様、モンスターが湧かない場所のようだった。
その中心で泣いている青年にナスターシヤが駆け寄って、抱きついた。
「なすたーしや?」
泣いていた青年はナスターシヤを黒眼に映すと、驚愕の表情を浮かべる。なるほど、青年とナスターシヤは血縁関係が一目で分かるくらい似ていた。
「ナスターシヤ、おにいちゃんにあいたくて来た」
「ナスターシヤ!!」
青年は感極まったようにナスターシヤの名前を呼ぶと、抱擁を交わした。肉親の再会そのものの様子に、俺もアリスも何も言えずに立ち尽くす。これに割り込めるヤツはなかなかいまい。
「おお、ナスターシヤちゃん。良かったな」
いた。なんか、唐突に現れて割り込んで来た。
「おい、本当に、どっから湧いてくるんだよ。あんたら」
「あら?普通に迷宮観光していただけよ?」
などと言いながら、兄妹の再会に割り込んで、一緒に抱擁を交わす俺の両親がいた。少しぐらい待ってやれよだとか思うが、気がついてしまった。
「あんたらがフォレボワに来たのは、ナスターシヤをこの兄貴と再会させるためだったんだろ」
そもそも、ファノンさんに言われて俺の存在を思い出した両親が、あの本を渡しに帰郷したハズがないのだ。別の目的で帰ったもののすっかり忘れてしまったのだろう。
「そう言えば、そうだったわ。結果オーライで無問題ね!!」
「問題しかないだろう?!そもそもナスターシヤはどっから連れて来たんだよ?!あと、この兄貴はいつからここに居るんだよ?!」
「そう急かさないの。ナスターシヤちゃんは、普通にヴェントの迷宮に居たのよ」
「ナスターシヤちゃんのおにいさんは、普通にこの迷宮が転送される前からここに居たっぽいぞ」
「それらのどこに普通要素があるんだよ?!」
怒鳴ってしまったのは、それこそ普通の反応だった。




