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いつから、俺の両親の目的が、攻略本を託すことだと錯覚していた、と、数時間前の俺に言ってやりたい。
酒場でとんでもない金額を払わされた後、あの駄目親ども次会ったら〆ると決めた俺だったが、その再会はあっさり訪れた。
フォレボワの迷宮に入ると、入り口の広場でピクニックをしていたのだ。風光明媚とはいえ、普通にモンスターが湧く場所でピクニックは、迷宮を舐めまくっている。
「おい、なんなんだよ、あんたら」
昨日の新素材がまさかの高額鑑定でなければ、あやうく借金作らされるところだったため、俺にとってこいつらは、親でもなんでもない気分だ。
さすがの金額だったためか、俺のぞんざいな態度に誰も触れない。寧ろ、Mあたりですら同情気味の目をしている。
「ああ、良い場所だな」
「ほら、お父さん、ファノンさんに頂いた、タルトよ」
俺の冷ややかな視線をものともせず、母さんが「あーん」と父さんにタルトを食わせている。父さんも父さんで、照れるでもなく普通に食いつくと、今度は母さんに「あーん」とやっていた。息子の俺が居た堪れない仲の良さである。
そんな中、マルガレーテが羨ましそうな表情を浮かべるが、声に出さないくらいには聡い少女なので、ぐいっと俺の腕を引っ張るだけに留めた。俺としては、あれが羨ましく見えるほうが羨ましい。
「あら、こっちのババロアも美味しいわ」
「ほら、クロ一号も甘いモノを食えば、イライラしなくなるぞ」
「あんたらが、視界から消えればイライラは解消する。それ以前に、酒場で食った御代を返せ」
能天気なこいつらにこそ、シャドウ・バインドやサイレンスをお見舞いしたいところだが、耐性的にきかないだろう。スキル使いにとって純闇ほど厄介なものはないんだなと、したくもないタイミングで理解してしまった。
「もう、クロ初号機ちゃんったら、親子じゃない?」
「親と子の間にも礼儀は要るだろうが!!」
そもそも、俺はこいつらに育ててもらった記憶がないし、事実もない。
「はははは、大丈夫だ。出世払いで返してやるからな」
「それ、普通は子供側が使うセリフだよな?!どこの世界に、子供に借金したあげくに、出世払いだとか抜かす親がいるんだよ?!」
「あら?ここにいるじゃない」
けろっと母さんが言う。あまりにも、さっくり言うものだから、言い返す気も削がれていく。ついでに、狂気が湧いてきそうな勢いで正気も削れていく。
「……先、行くぞ」
これ以上は俺の気力が危ないので、力なくそう言う。誰も文句は言わない。アリスですら、ファノンさんの菓子を前に、異議を唱えない。
「その、なんだ、モンスターにぶつけちまいな」
「クロ助、ほら、ダークネス・スパイダーとかダーク・ドラゴンとかスリト・マンティス、一人でぼこって良いからさ」
「そうだな」
その後、俺は見事に不満をボスどもにぶつけた。ナスターシヤの情操教育上よろしくないくらいにフルボッコだったのだが、その辺りはシャルロッテがフォローをしてくれたのだった。




