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そんなこんなで、攻略本を託された。
俺の両親が立ち去った後、どれから手をつけていいのか分からなくなった俺たちが、本を囲んで座り込んでいた。
一応、「ヴェントへ行く」という目標に違いはないわけだが。
「問題は迷宮の生成方法が解明したとして、それが解除できるかだよな」
この本や石版を遺した奴らが、未来に丸投げした問題はソレなのだ。
「そうですね。何を使ったスキルかが分かりませんが、モンスターが無限に湧く仕様なのを考えると、恒久的な何かを使ったんだと思います。ただ、迷宮を生成させるほどのモノとなると、解除した際にどうなってしまうか想像もできません」
「はいはい!!マルガレーテの王子様!ネーベルはもう迷宮内に結構な人口が住み着いちゃってますから、今更解除は難しいと思います!!」
丸投げてくれた問題は、更に厄介な問題まで抱え込みやがった。
そうなのだ。なんだかんだ言って、迷宮は既に生活に密着している。フォレボワだって、迷宮が見つかったおかげで、農村から町になったのだ。
それでも、フォレボワやヴェントの町はまだ良い。
ネーベルのように迷宮内に多くの人間が住んでいるとなると、無くなって困るなんてレベルではない。
それに、シャルロッテの言うように、迷宮を生成させることができる<何か>の問題もある。その<何か>をそっくりそのまま使用しているのならば、俺たちがその<何か>を正確に知ることは不可能なのだ。
「いや待てよ。この本のように情報を転送している可能性もあるのか」
「でも、酔った状態で何も覚えていないのでしょう?気がつきますかね?」
「……地殻変動」
俺とシャルロッテがうんうん唸っていると、ナスターシヤがぼそっと言う。
「ちかくへんどう?ですか?」
こてんとシャルロッテが首を傾げる。そして俺を見るのだが、俺が知るはずがない。
「……地殻変動であってる」
こくんと確信したようにナスターシヤが言う。
「あのさぁー」
ふと、そんな中、アリスが情けない声を上げる。
「あ、あたいもー」
げんなりしたMも覇気がない。
「考えるのも疲れたし、ごはん食べよう!!」
「あたいも考えすぎて、空腹だよ!!」
「お前らは、いつ、そんなに、エネルギーを使うくらい、考えていたんだよ?!」
こいつら、二人してそうそうに考えることを放棄していたぞ。
ちなみに、アリスはヴェントに行く際には数年帰らないことを条件に、出入り禁止を解いてもらっていた。
「うう、だってぇ、どの道ヴェントに行くために、今日も迷宮行くじゃん!!腹ごしらえしとかないと!!」
「ケロの字、暫くは迷宮内だろう?」
考えていないなりには、考えているらしい。
「まあ、ヴェント以降の迷宮に行けないと話しにならないからな。今は、フォレボワの迷宮に集中するか。また、なにか解決へのヒントが見つかるかもしれないし」
ただし、俺はあの石版をヒントとは認めたくはない。同様にこの攻略本も認めたくない。
そして酒場に下りた俺は、俺の両親が俺のツケで食べまくったことを知るのだった。




