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「ああ、それな。一番最後に出てきた迷宮にカース・ガイドをかけてこい」
俺の真面目さを返せと言いたくなる軽さで父さんが言う。そして、なんか色々重要そうな扱いになっているカース・ガイド。最早、地味スキルとか地雷スキルとか言えないかもしれない。
「結論急かした俺が悪かった。何がどうして、どういう意図があって“カース・ガイドをかける”という話になるんだ?」
不明箇所の多さに俺が言うと、両親はきょとんとした顔をする。俺と同じ顔で間抜け面はやめて欲しい。
「あのですね。私たちは転送もとについて、何も知らないんです」
「あら、それはそうよ?ばっさり<過去>をなくしたんだもの」
「あのな、それじゃあ、この攻略本とやらはドコから伝わってきたんだ?」
多分、俺たちと両親の間には基礎情報の食い違いがある。
「ああ、先週だったかな?ヴェントの迷宮で拾った」
「そういうことは早く言え!!」
ばっさりと過去が無かったことになった時、無かったことにしたくないモノを迷宮に突っ込んで、転送する側に持っていったと言うことだろう。
それならば、俺たちがフォレボワの迷宮で見つけた石版も同様に「無かったことにしたくないモノ」だったのだろう。
「その場所にな、岩に口語が彫られていたんだ」
「そう言えば、そうだったわね」
「なんて?」
嫌な予感がするので聞きたくはないが、きかないことには何も解決しない。
「ええっと『酔った勢いでやった。反省はしていない。あ、解除方法が分からないので、よろしく』だったかな?」
「あら『若気の至りだった。あれだ、ファイアー・ボールを<地獄の火炎>とか言いたくなる年頃があるだろう?あれが再燃して、俺が考えた超手ごわい迷宮とか調子に乗った』ともあったわ」
「取り合えず、患った酔っ払いが元凶なんだな」
ふと、俺の側でシャルロッテが難しい顔をしているのに気がついた。
「あの、一つ良いですか?」
「あら、どうぞ?」
「その人が生成したとして、一人の力量でこんなに迷宮を出現するものでしょうか?」
確かに、転送ですらそれまでの<過去>を一切代償にして成し遂げたようなのだ。生成に使われるエネルギーを考えると個人の範疇を越え過ぎている。
「ああ、それか。末尾に『フォレボワ青年団一同』とあったぞ」
「おい」
末尾は無かったことにして欲しかった。
「それから、どうやって生成をしたのかを調べるのがクロ初号機ちゃんの役目よ」
「それで、カース・ガイドか」
げんなりした気分になるのは仕方がない。
「ところで、石版の翻訳の方はどうでしたー?」
良いタイミングでマルガレーテが、程ほどに話題を変える。腕に絡み付いてきたり、布団に忍び込んでこなければ、本当に良い奴だ。
「ああ、イカガワシイ広告を文語にしてあったぞ」
「クロ初号機ちゃんもそんな年頃なのね」
「いやぁ、『当店では、見目麗しい妙齢の淑女達が、貴方様のご来店を、心よりお待ち致しております』とか、一瞬何事かと思ったぞ。『可愛い若い子ちゃんたち揃ってるよ!』ってことなんだろうけど」
そのイカガワシイ広告に見覚えがある。他の奴らもそうだったのだろう。アリスとMですら「「ああっ!!」」と声を上げていた。
「「口語の広告!!」」
アリスとMのハモりは、まさに騒音だった。耳がキーンとする。
「大方、文語が伝わらなかった場合の保険だろうなぁ。同じ内容を併記することで、解読のヒントを遺そうとしたんだろう」
うんうんと父さんが頷いているが、俺は言いたいことがあった。
「あのな、それを、イカガワシイ広告で遺す必要がドコにあるんだよ?!」
「クロ初号機ちゃん」
と、母さんが正面から俺の両肩に手を乗せる。
「エロはとんでもない熱意を生み出すモノよ」
したり顔で言うが、母親にそんな言葉を言われたくない。
「もう、常識が来い!!」
朝っぱらから、宿屋に俺の悲鳴に近い絶叫が響いたのだった。




