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「じゃあ、茶番はここまでで、その本は、所謂攻略本だ」
「難易度が上がってくるヴェント以降の迷宮の攻略法が途中まで書いてあるの」
俺の両親はさらっと、もの凄い重要なことをのたまった。
本当に待ってくれ。情報が頭に入らない。
「ヴェント以降って、どういうことだよ?!」
現在、最新の迷宮がヴェントなのだ。そのヴェント以降の迷宮について書かれているとなると、誰がいつ書いたのかということになる。
「あら?どうせ、カース・ガイドあたりで、転送系のスキルで飛ばされたって知ってるんでしょう?」
「ああ、それを詳しく知るためにヴェントに行こうとしている」
「って、なんで俺がカース・ガイドを習得してるって知ってるんだ?」
カース・ガイドは結構マイナーなスキルなので、純闇全員が使い物になるくらいの熟練度を有しているワケではない。
「だって、クロ初号機ちゃんってば、ギルドでクレリック登録しているでしょう?」
「他の純闇ならばまだしも、純闇クレリックならば、当然使いまくっているだろうからなぁ」
ただのアホ両親じゃなかったことを喜んで良いんだろうか。まったく嬉しくないんだが。
「と、それは良いとして、この本と迷宮だったな」
「あら、また忘れるところだったわ」
前言撤回。やっぱりこのトリ頭両親はアホだ。
「早い話が、転送もとの時代に書かれたモノなの。途中までなのは攻略を放棄したからね」
「後世の誰かが何とかしてくれるだろうと、問題を先送りしたらしいぞ」
ほれっと父さん(認めたくはないが)が最後のページを示す。そこには、俺たちでも読める口語で『わりぃ、これ以上の攻略無理』と簡潔に書かれていた。丸投げにも程があるだろう。
「もともとフォレボワは後世の攻略を目指して、純属性化を進めていったの」
「どうも、ここに書かれた迷宮以降は特化型のステータスを要求されるらしい」
「スキル無効くらいじゃないと即死くらったり、スキル攻撃も特化型じゃないとダメージが入らなかったりするらしいわよ」
その本以降って、あとどれくらいの迷宮が出現する予定なんだ。それから、今の出現ペースで現れた場合、何百年、下手すりゃ千何百年かかるんだ。
「大丈夫、ヴェントの次のテンペスタの迷宮からは雨後の筍の如く乱立するから、テンペスタ確認後は一年以内に出揃う予定みたいよ」
「とりあえず、難易度順に送っていたみたいだが、最後はそんな余裕もなかったらしい」
おい、何気に不穏なことを言わないで欲しい。
「あの、転送スキルって現存しませんよね?」
ふと、シャルロッテが言う。確かに転送スキルは現在存在しない。
「ああ、人道的に無理だからなぁ」
「逆に言えば、人道無視すれば現在も使えないこともないけれど、めんどくさいのよねぇ」
ちょっとまて、こいつら、なんで、転送スキルについて知っているんだ。
「人道的にって、なにがあるんだよ」
「……存在の否定」
答えたのはナスターシヤだった。まさかの場所からの返答に思わずビクッとなる。
「そうそう、ナスターシヤちゃん、大正解よ。まあ、ぶっちゃけ、最初っから存在を否定されるような人にはなんともないのだけれど、それじゃあ、足りないのよねぇ」
「……なあ、それって、人間以外でも良いのか?」
気になったことを口にすると、両親どもはにやりと笑い、シャルロッテとマルガレーテがはっとした表情を浮かべた。
「さすが父さんの子だ」
「あら、母さんの子だからよ?」
「おい、どうなんだ?」
「もう、せっかちさんなんだから。勿論、<存在>があるのならば、なんでも良いわよ」
あっけらかんと母親が言う。
これ、確実に<過去>を代償にしたっぽい。
「で、この攻略本を渡された俺たちに何をさせたいんだ?」
俺は姿勢を正し、冗談を言ったらただじゃ置かないと目で両親を見た。




