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結局、その日の両親との再会は茶会に終わってしまった。
宿屋に戻ったときには、待機組は既に熟睡していたので、俺たちもさっさと寝たのだった。
翌朝、全員が起きたところで、渡された本を眺めたわけだが。
「見事に古語ですね」
シャルロッテが言う。
「これもギルドに持って行くんですかー?」
マルガレーテが本を指差しながら質問してくる。
「そうしたいのは山々だが、あいつらが渡してきた本だからな」
普通の両親から渡されたのならば、ギルドに持っていけるが、アノ両親である。嫌な予感しかしない。
「でも、読めないことには、どうしようもないですよね?クラウディオさんのご両親はコレが本題だと仰ったのでしょう?」
「ロクでもないことの可能性が高いんだがな」
「なかなか面白い両親だったよね!わたしの親なら死ぬほど嫌だけど」
「そうそう、愉快な両親だったじゃないか。あたいも死ぬほどゴメンだけどさ」
「最後の本音で、フォローになってねえよ!!」
どいつもこいつも、他人事だと思ってやがる。まあ、実際に他人事なんだが。
「あら、クロ初号機ちゃんは、古語が読めないのねぇ」
「勉強不足はいかんぞ!クロ一号」
本を全員で囲っていると、いつの間にか、とんでもないのが混ざっていやがった。これ、部屋に通したのはウィンザー夫妻だろう。
「なんで、湧いて来てるんだよ?!」
「イイ朝だな!」
「あなた、初号機だっていってるじゃない。もう、きかない人なんだから」
「たった今、俺だけピンポイントで絶望的な朝になったけどな!それから、きかないのはアンタもだからな!!」
「あら、クロ初号機ちゃん。昔にたいに『まーあー』って言っても良いのよ?」
「それ、俺が何ヶ月のコトだよ?!」
このヒトたちと会話していると、正気がゴリゴリ削れていく気がする。
「それで、クラウディオさんのご両親は、何しにいらっしゃったのですか?」
絶妙に空気を読まないシャルロッテが訊ねる。さすが、俺の訂正をスルーして「クラウディオ」と言い続けるだけはある。
「ああ、それな。石版から転写した古語の翻訳の依頼を出していただろう?」
「父さんと母さんが昨日、ぱっぱっと終わらせたから持ってきたの」
「それ、昨夜のうちに渡してくれよ?!と言うか、古語の翻訳依頼出してた時点で、この本が読めないことは分かっていたよな?!」
「まあ、普通に忘れていた」
「あらあら、クロ初号機ちゃんったら、カルシウム不足よ」
だれか、この両親をどうにかしてくれないだろうか。
「……おばちゃん」
突然ナスターシヤが母親(認めたくはないが)のスカートの裾を引っ張る。
「あら、ナスターシヤちゃん。無事にお兄ちゃんに拾われたのね。忘れちゃってごめんなさいね」
ナスターシヤの頭をナデナデしながら、とんでもないことを暴露しやがった。
「おい、ナスターシヤがあんな場所に居たのって」
「久しぶりに帰郷すれば、迷宮があるじゃない。父さんとはしゃいだだけよ?」
「そうそう、アレはテンションが上がってな。ぶっちゃけ、今、ナスターシヤちゃんのことを思い出したくらいだ」
「本当にね。それから、クロ初号機ちゃんのことは、ファノンさんに言われて思い出したのよ」
本当に、こいつらどうしてくれようと、俺が思ってしまったのは、仕方が無いことだった。




