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「あ、ケロ助は細胞分裂で増えるのかい?」
リビングに入ってすぐにMが言った。
その言葉につっこみを入れられない程度に、俺そっくりというか、最早クローンレベルの人間が二人いた。
「うわぁ、似すぎて怖いね!」
「コピー元を見せられたクローンの気分が分かった気がするな」
「でも、親子だと一目で分かって良いじゃないかい。あたいとしては、真っ先にクローンを疑うけど」
「それ、一目で親子じゃなく、クローンだって理解されてるよな?」
薄気味悪がっている俺たちを知ってか知らずか、多分知らないんだろうケド、ファノン夫妻と俺の両親が談笑している。
「ああ、クロ一号、大きくなったな」
「あなた、クロ初号機よ」
「え?クロードだよな?」
ちょっと待て。俺、なんか両親に酷い名前で呼ばれてないだろうか。
「そういえば、そんな名前だったわね」
「ああ、とりあえず、クロなんとかだと覚えていたんだが、分からなくなってな。一号と呼ぶことにしたんだよ、クロ一号」
「あら?初号機よ」
「いや、今判明したんだから、普通に呼べよ」
同じ顔で強烈なボケをかまさないで欲しい。そもそも、この人たちは俺のアイデンティティーを破壊しに来たんじゃないだろうな。
「まあ、そんな瑣末なことは流すとしてだ」
「いや、息子の名前は瑣末で良いのかよ?!」
「クロ初号機ちゃん。あなたの名前って、名前つけようと思った日以降に一番早く亡くなった人のモノを適当につけただけなの。女の子なら、マリーだったのに」
衝撃的過ぎるだろう。そのぶっちゃけ。と言うか、墓場まで持っていって欲しかった真実だ。
「まあ、そんなわけで本題だ」
「本を渡すだけに、本題ね」
はいっと母親が本を渡してくる。この人たちと血縁関係がある事実を葬り去りたい。
「デュマさん、お菓子とお茶の追加ですよ」
そんな中、イレーヌさんが大量の焼き菓子と紅茶を運んでくる。エミールさんも手伝う量にアリスの目が輝く。
そう言えば、ファノン夫妻の反応がなかったのはキッチンに行っていたからなのか。
「わああ、美味しそう」
「ああ、マカロンじゃないか!!実物は初めて見るよ!!」
アリスとMは嬉しそうで何よりである。
「いやあ、ファノンくんは気がきくなあ」
「あら、こっちのブリオッシュもなかなか美味しいわ」
気がつくと両親もナチュラルに追加の菓子を堪能している。本題どこ行ったよ。
「あの、本題とやらは」
「ああ、その本適当に読めば、なんとなく察することができるかもしれない、気もする」
「大丈夫、情報は感覚で感じるの」
「大丈夫な要素が皆無だよな?!」
俺が言うが、二人はすっかり菓子に夢中である。これはアリスもMもなので、俺だけが浮いているのだ。
埒もあかないので、俺も菓子を食べることにした。イレーヌさんの菓子が美味しいのだ。
帰りにナスターシヤたちのぶんも貰いたいなと思いながら、やけ食い気味に食べ始めた。




