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町の奥の田園地帯に旧デュマ家がある。
旧というのは、どこぞの両親が引越しの際に、当時新婚だった夫妻に譲渡したからだ。現在はファノン邸といったところか。
尚、新婚のファノン夫妻は、家を手に入れると同時に、置き忘れられた俺の面倒をみる羽目になった。俺としては、あの夫妻こそ両親のように思っている。
そんな現ファノン家に俺の実の両親が泊まりに来ているらしい。
「へぇ、ケロ助の生家はいいところじゃないか」
「それは、ファノン夫婦が手入れをしたからだ。原型はマリアさんの道具屋とどっこいどっこいのあばら家だったらしい」
伝聞なのは記憶がないからだ。それでも、訪問してくる近隣住人から「あのボロ屋がこんなに、こ洒落た家になるなんて」などと毎度の如く言われれば、嫌でも想像できる。
「こっちには久しぶりに来るね!イレーヌさん元気かな?」
うきうきと毎度毎度、ファノン夫人ことイレーヌさんに焼き菓子をたかっていたアリスが、涎を垂らし気味にのたまう。こいつ、絶対に菓子目当てで同行しやがった。
現在俺たちは、宿屋待機組みと俺の両親に会いに行く組に分かれていた。
時間帯的に日没が近く、ナスターシヤを連れまわすのが躊躇われたのだ。ナスターシヤにはシャルロッテとマルガレーテがついている。
マルガレーテはぐずると思ったのが、絶妙に空気が読める少女は結構あっさり引き受けてくれた。この辺りはアリスも見習ってほしいものである。
「っは!これって、あたいだけが、初対面なんじゃないかい?!」
「いや、今更、気付かれても、玄関なんだが」
特になんともなくついて来ていたMはここで、今更のことを言う。お前、なんでついてきたよ。
「エっちゃん大丈夫だって!イレーヌさんのマドレーヌはとっても美味しい!!」
「それのどこが大丈夫に繋がるんだよ?!」
「それは本当かい?!なら大丈夫だ!!」
「お前も何が大丈夫なんだよ?!マドレーヌは暗号かなにかなのか?!」
まあ、そんな大声で騒いでいたのはファノン家の玄関だったわけで。
「おや、クローナ、久しぶり」
家からエミールさんが出てきて、そういった。多分も恐らくも必要ないくらいには、騒音を立てていた自覚がある。
「あ、煩くしてすみません」
「いやいや、久しぶりに君の声を聞けて嬉しいよ」
「そうよ!クローネってば、全然こないんだもの!!」
夫の後ろからイレーヌさんが言う。実家の雰囲気を味わいたいのだが、二人とも名前を間違えている。つか、俺、まともに名前を呼ばれたことがない気がしてきた。
「デュマさんなら、中よ。さあ、入って」
にこにことイレーヌさんは俺たちを招きいれる。本当に、俺の産みの親が中にいるのか。
「わぁ、クロ助、楽しみだね!!」
「これが、感動の再開ってヤツかい!!」
「お前ら気楽で良いよな」
仕方が無いと俺はリビングに向かった。




