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フォレボワの町に戻ると、まっすぐにギルドに向かった。
「お疲れさまダ」
新素材や新モンスターに新マップを提出すると、受付嬢がテンプレのセリフを言う。重低音の貫禄から、ボスに労われた気分になる。ギルドのトップは会長らしいけれど。
「おっと、これも頼みます。一応、迷宮内にあった文章です」
立ち去りかけた俺は、シャルロッテが写生した文章を思い出して、受付嬢に渡した。
「分かっタ。他のPTにモかけあウ。明日にハ翻訳できていルだろウ」
「それじゃあ、また明日」
「こっちノ、新素材と情報の報酬モ計算しテあした渡ス」
明日まで時間が空いたわけだが、現在の時刻は朝だ。昼間でも遠い。
俺としては宿屋の自室で、のんびりとしたいのだが、アリスを筆頭にシャルロッテ、マルガレーテ、M、ナスターシヤに押しかけられるのが見えている。絶対に休まらない。
「そう言えば、クラウディオさん。歓楽街はありますか?」
「は?」
どうしたものかと思案していると、シャルロッテがとんでもない発言をしてきた。あれだ、アリス菌が感染してしまったのではないだろうか。
「いえ、水晶の板の元は風俗の看板だったので、手がかりがあるかと」
「ああ、それか。残念ながら、フォレボワにはないんだよな」
「珍しいですね」
「なにしろ、十年前まではただの農村だからな。それに、今も純属性の町なんだ」
子供の属性は親の属性が引き継がれる。親が同じ純属性同士なら子供も必ず純属性になるので、フォレボワの婚姻は同属性同士が望まれる。したがって、混合属性が生まれる可能性のある風俗店は基本的に望まれない。
まあ、町に望んでいないだけなので、よく他所の歓楽街巡りの馬車ツアーが秘密裏に開催されたりはする。尚、うっかりばれたときは、受付嬢による半殺しの刑が存在するので、わりと命がけだったりするのだった。
「では、この板の頃は、純属性の町ではなかったということでしょうか?」
「ああ、言われてみれば、なんか引っかかるな」
「もう、シャルロッテ、それは現代語訳が終わってからで良いじゃん。そうですよね、マルガレーテの王子様」
一つの引っ掛かりが無限の疑問を呼んでいると、マルガレーテが中断を促してくれた。意外と空気の読める少女である。
「クロ助、ナっちゃんもおやつが食べたいって!!」
「おい。“も”ってなんだ。“も”って」
「だって、わたし、おなか減ってるもん」
「ケロ助、賭場はどこだい?」
「いや、お前、今、俺とシャルロッテの会話聞いてたよな?強いて言えば、深夜の酒場で、アリスが賭博してるくらいか」
そして、俺たちはグダグダと時間を潰すのだった。




