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宿屋に戻ったは良いが、俺の広いとはいえない部屋に、六人も集まっている。
一応、兄貴が見つかるまで、俺の保護下におかれることになったナスターシヤは良い。
罰として、一晩ほどサイレンスとシャドウ・バインドかけて放置予定のアリスとMは、まあ、オブジェか何かと思えば大丈夫だ。多分。
「マルガレーテの王子様!!夜の奉仕は任せてください!!」
「マルガレーテちゃんが、こっちで寝るそうなので、お邪魔します。ナスターシヤちゃんの視界と耳はちゃんと塞ぎますので安心してください」
「できるか!!」
フリーダムな風属性二名は、ちゃんと部屋を取るべきだろう。常識が来い。
俺は、嘆息すると、掛け布団をアリスとMにかける。そして、道具袋を枕にして、俺自身も床に寝転がる。
「お前らはそのベット使って寝ろ」
「マルガレーテの王子様!添い寝が欲しくなったら、すぐに言ってくださいね!!」
「未来永劫欲しくならん!!」
なんだかんだ、引き際を弁えているマルガレーテは、おとなしくシャルロットとナスターシヤと一緒に横になる。
翌朝はマルガレーテとナスターシヤにしがみ付かれた状態で目が覚めた。
お前ら、どんな寝相してんだよ。
起き上がると、一番にアリスとMのサイレンスとシャドウ・バインドを解除する。寝辛いはずなんだが、爆睡する二人は図太い。
「ふあああ、おはようございます」
僅差で起きたシャルロッテが、寝ぼけ混じりに言う。髪の毛を解いて寝ていたからか、物凄い惨状になっているのは、あえてスルーするのがマナーだろう。
「今日は、未踏破区画に行くとして、どれぐらい倒せば良いんだ?」
寝起きに悪いと思ったが、問題児どもが静かなうちに重要なことを話すことにする。
「そうですね。私もマルガレーテちゃんも累計でそこそこいってると思うので、想定より少なくても大丈夫だと思います。クラウディオさんが熟練者だったのは嬉しい誤算でした」
「PT申請なんざ、これが初めてだったからな」
実はかなり狂喜しているのだが、プライドにかけて表情にも態度にも出さない。
シャルロッテは再度、大きな欠伸をすると、ふわりと笑う。
「私も六人PTは初めてです。しかも、未踏破区画なんて、楽しみです」
可憐な容姿でも冒険者、目が好奇心に輝いている。
「このメンバーなら、三日も潜れば、充分認定されるくらいは倒せそうです」
「ヴェントに行くことを考えたら、最短を狙うくらいじゃないとな」
時間が経てば経つほど、迷宮にかけられた術の痕跡は少なくなっていく。早ければ早いほど良い。
「はい」
はにかみながらシャルロッテが返事をする。可愛いと思う。たとえ、髪の毛が凄い状態でも。
朝からほのぼのしていると、ナスターシヤが目を覚ました。
「おはよう」
「……ん」
こっちは、あまり寝癖が目立たない。わしゃわしゃと頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細める。子猫を彷彿とさせ、思わず口元が緩む。
「ああ!!マルガレーテの王子様!!あたしもおはようのチューをしてください!!」
「おい、“も”って何だよ?!“も”って!!」
「おおー、動ける!話せる!!おっはよー!!話せるって素晴らしい!!」
次々起きてきて騒がしくなる。
尚、Mが起きたのは、他の全員が迷宮へ行く準備が整った頃だった。




