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鶏小屋じゃない、武具屋に入ると、にこやかなマリアさんが居たが、スルーだ。今回の迷宮探索はこの人のせいで、えらい目にあった。
トラップ解除も、結局、Mが仲間になった時点で、ただ働きになったわけだし。
俺は恨めしい目を向けてやる。
しかし、アリスは鳥頭のため、嬉々としてマリアさんのところへ行く。
「お帰り!じゃあ、次回の探索に備えて、買って買って」
「アリスとM、マリアさん製作のモノは絶対に買うな!!」
「えー」
「別に構わないけど、どうしてだい?」
「お前ら、この人の作ったトラップを忘れたのか?!」
どうしよう。この火属性どもが、武具屋で着々と死亡フラグを立てやがる。
一応、お目付け役をマルガレーテに頼んで、俺はシャルロッテと一緒にナスターシヤの装備を探す。
攻撃力は下がるが、軽いのが特色の弓と、防御力が下がるけれども動きやすくて軽いアーマーを選ぶ。
ボロクソに罵りたいレベルで迷惑品を量産するマリアさんだが、余計な加工さえしなければ、普通に良いものを作る。そこは腐っても純土属性だ。
「……おそろいがいい」
俺とシャルロッテが、さっさと決めたところで、ナスターシヤから抗議の声が上がる。ローブの裾どころか、俺の手首までしっかり掴んでいた。
「おそろいって、このローブか?」
「……ん」
ナスターシヤは頷くが、俺のローブはクレリックの専用装備だ。いくら望んでも、ハンターのナスターシヤは装備できない。
どうしたものかと、思っていると、視界の端に蜘蛛糸のチュニックが見えた。チュニック系はどの職でも装備可能な変わりに防御力は高くない。布製品なので動きやすさに制限を受けることはないので、アサシンなど速さがモノをいう職業の中には、敢えてコッチを愛用するものもいる。
俺は蜘蛛糸のチュニックを手に取ると、ナスターシヤの横に並べて大きさを見てみる。
身長的にナスターシヤが着れば、白いローブのように見えなくもない。腕まくりは必須だが、首周りにボタンがあり、かっちり着るタイプなので襟ぐりの心配もない。
「丁度良いですね。これ、ダークネス・スパイダーの糸ですか?」
「ああ、物理防御に不安はあるが、状態異常耐性もあるし、悪くないんだよな」
「……これがいい」
ナスターシヤが大きな黒眼でじっと見上げてくる。
実際問題、遠距離攻撃で前衛になることはないし、闇属性持ちで魔防も素で高いので、防御は拘らなくとも大丈夫だったりするのだ。
「分かった。こっちだな」
俺が了承すると、ナスターシヤは嬉しそうな顔をした。当社比なので、パッと見はやっぱり無表情だったりした。
「マルガレーテの王子様!!もう、あたしの手には負えません!!」
「すぐ、行く!!」
ひと段落したところで、マルガレーテからSOSが入る。あの二人どころか、マリアさんまでいる中、お前は本当に良くやった。
「クロ助、このアーマー欲しい。防御力0だけど!!」
「ケロの字、この改良トラップで、今度こそ!!」
「クロルテトラサイクリン君もどう?」
切れた俺は絶対に悪くない。
「アリス、M、覚悟は良いな?」
二人に向けて、容赦なくサイレンスとシャドウ・バインドをかけた。
「モウ、ヤダナー、ジョーダン、ダヨ」
ぎろりとマリアさんを睨むと、「ハハハハ」と片言で言い逃れしやがった。
とりあえず、一通り揃えると荷物と化した火属性どもを引きずって、宿屋に帰ることにした。




