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闇属性僧侶のあんまり平穏じゃない日常  作者: 水可木
一章、迷宮とトラブルメーカー
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2

 無事に朝食を終えた俺は迷宮の入り口で待ちぼうけをしている。

 誘った本人はただ飯の代わりに皿洗いをしているのだ。宿屋のウィンザー夫婦も実の娘に対して容赦がない。

 フォレボワの迷宮は、町から徒歩十五分と、お手ごろなな場所にある。

 薄暗くもなく、殺風景でもなく、木漏れ日が綺麗な迷宮なので、迷宮入り口付近はフォレボワの若者のデートスポットでもあった。

「ごめん!」

 ライ麦パンをくわえたアリスが、器用にしゃべりながら、走ってきた。このまま他人のフリをしたくなるのは、前述通りここがデートスポットだからだ。カップルたちからの視線が痛い。

「って、お前、武器はどうした?」

 武器がなくともスキルで敵を攻撃できる俺と違い、ソードマンのアリスは剣がなければ話にならない。それにも関わらず、アリスは何にも装備していない。

「着てるモノより先に賭けたに決まってるじゃん!!」

「威張るな!!」

「それに、多分、昨日の冒険者から回収できそうじゃん」

 無邪気な笑顔でえげつないことを言う。

 フォレボワに純属性が多いのは、純属性以外が生き残るが大変だからだ。ある程度の熟練度があれば別だが、昨日の冒険者の様子では入り口付近でただのしかばねになってるのが何人か居そうだ。

「ったく、転がってなかったら猛毒モンスターどもを素手で倒せよ」

 嘆息しながら、迷宮へと足を進める。

 フォレボアの迷宮は入ってすぐが、広場になっていて、ちょっとした花畑といった雰囲気である。出現する雑魚ざこは、蝙蝠こうもり系のベノム・バット、毒蛇どくじゃ系のシャドウ・ヴァイパー、大鼠おおねずみ系のブラッド・ラットと、ことごとく状態異常持ちの鬼畜であるが。

「ほら、転がってたじゃん!」

「いや、入って一歩で全滅とか、逆にすげーよ」

 三人組が地に伏している。火属性の赤髪に土属性の茶髪に風属性の緑髪が入り口付近をふさいで地味に邪魔だ。瞳の色が分からないので断定できないが、ここまであっさりやられているところを見ると闇属性持ちが居なかったのだろう。

「あ、ほら、この人、良い剣持ってた!」

「そいつらの装備をいで帰るか」

「んー。蘇生して礼金貰ったほうが儲かると思うよ?」

 がさがさ屍をあさっていたアリスが、金がたんまり入った袋を見つけて笑う。全滅した際に蘇生してくれた相手に対する礼金は、所持している金全てというのが相場だ。

「めんどくさい」

「そー言わずに」

 蘇生スキルは光属性にもあるのだが、アリスはまだ習得していない。と言うか、この女は攻撃重視で火属性の熟練度ばかりを伸ばしているので、早い段階で習得できるはずの光属性スキルのヒールすら習得していない。

「報酬は全部俺が貰うからな」

「げっ」

「当然だろう?」

「うう、剥ぎ取ったほうが良いと思うよ?うん剥ぎ取ろう!!」

「蘇生する」

 ぎゃーすか言うアリスをスルーして、闇属性スキルのサモン・ソウルを唱える。このスキルは本来、招魂しょうこんした相手をそのままマインド・コントロールして自分の配下に置くモノなのだが、マインド・コントロール部分を放棄すれば、ただの蘇生になる。

「あり?」

 最初に起き上がったのは茶髪のレンジャーだった。金色の瞳をぱちくりさせているが、ギリギリ若者と言えるようなツラをした大男がやっても気色悪いだけだ。

 その次は赤髪のガーディアンと緑髪のローバーが同時だった。そして、彼らもまた、金色の瞳だった。これは酷い。

「なんで、闇属性迷宮に耐性装備なしで入ったんだ!!」

 闇属性の弱点属性は光属性だが、逆に光属性の弱点は闇属性である。<速さ>が伸びる風属性持ちがいるので先制狙いだったのだろうが、闇属性の奇襲にやられたのだろう。それはもう気持ちいいくらいダメージが入ったに違いない。

「っは、そうだ!」

 赤髪が人の話を聞かずに叫ぶ。これ、意地を張らずに装備を剥ぎ取った方が良かったな。

「シャルロッテたんが危ないんだああああ!!!」

「危ないのはあんたの頭だ」

 ぐわああと騒ぐので、驚いた雑魚モンスターがたかって来る。

 俺は舌打ちすると男どもにサイレンスをかけて、雑魚に向き直る。

「アリス!」

「はいよぅ」

 先ほどぱくった剣でアリスはシャドウ・ヴァイパーを三枚におろす。容赦のない攻撃に沈黙の男たちも引き気味だ。

「動くなよっと」

 見慣れている俺はいつものようにシャドウ・バインドで雑魚の動きを縛る。本来、闇と水の混合属性であるシャドウ・ヴァイパーには闇属性の状態異常は効きにくいのだが、圧倒的なスキル熟練度でゴリ押す。

うろこ、傷つけるなよ?」

「分かってるって、ありゃ?」

 シャドウ・ヴァイパーの鱗は血清けっせいの材料として、そこそこの金額で取引される。討伐報酬よりも鱗狙いの方が稼げるのだ。

「お前、毎回毎回、破壊すんな!!学習能力がないのか!」

 ただし、アリスは毎回、粉々にしてくれる。

 襲ってきた雑魚どもを一掃すると、今度は男どもにシャドウ・バインドをかけて『ギルドまで届けてください』と書いた張り紙を貼って、転がしておいた。無論、有り金を貰うのも忘れない。

「とりあえず、奥行くぞ」

 同情の目で男たちを眺めていたアリスに声をかける。

「へ?」

 きょとんと、こっちを見てくるあどけなさは、先ほどまで蛇の微塵みじん切りをしていた人物とは思えない。

「さっき、そいつらが言ってただろう?『シャルロッテが危ない』って」

「あ、助けに行くんだ」

「ついでだ」

 めんどくさいので、なげやりに言うと、何故か嬉しそうにアリスが笑う。

「うん、行こう!クロ助!」

「だから、クロードだ!!」

 散々暴れたので、しばらくこの辺りにモンスターは出現しないだろう。俺たちは男たちをほっぽいて、奥へと向かった。 





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