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「そうですね、ネーベルの迷宮が街に呑みこまれたというのは有名ですよね」
シャルロッテはどこから話そうかと迷っている様子だった。
この時点で理解の範疇ではないと理解した火属性の馬鹿二名は、早々にリタイアして、水遊びを始める。おい、ナスターシヤですら、真剣に聞いているぞ。
「マルガレーテの王子様、迷宮の中は、どんなに駆逐しても、モンスターって無限に湧きますよね!」
「ああ、ってコトはネーベルは街中にモンスターがいるのかよ?!」
「はい、そうは言っても、フォレボワの町にも野鼠は出ますよね。ネーベルのモンスターの強さはそれくらいなので、まあ、一般人や子供が簡単に駆除できるんです」
シャルロッテがフォロー?を入れてくる。
「最初に発見された迷宮は最も難易度が低い迷宮でもあるんです」
「新しく発見される度に難易度が上がってるのか?」
「はい。少なくとも、入って一歩で全滅者がでる迷宮は初めてです」
こくんと、シャルロッテは肯くが、あの大男三人組はカウントして良いんだろうか。
「マルガレーテの王子様、あたしたちは他の迷宮も行ったことありますが、入ってすぐの場所で、大声上げて、モンスターに囲まれたって、全滅なんてできるものじゃないんですよ!」
「はい、いきなり、状態異常持ちはここが始めてです」
「……なあ、これ、次の迷宮は……」
「最新のものはヴェントの迷宮ですね。地元の住民すら立ち入りが難しく、ギルドは熟練者のみの制限を設けたと聞いています」
基本的に迷宮のモンスターはその周辺に生息しているモノと同質であるため、地元の住人ならば、難なく立ち入れるものだ。鬼畜迷宮のフォレボワの迷宮ですら、ギルド登録すらしていない近所のおじさんが屍回収をしたりしている。
「私が迷宮に疑問を持つようになったのは、ソレなんです。なんで、難易度が上がっていくのかと」
「最初は生成系の術を疑ってたんですよ!」
普通に考えて、生成されたと考えるだろう。周囲と同じ性質のモンスターが出現するのだから。
「そこで、モンスターどころか、生息している植物の比較研究に手を出したんです」
「カース・ガイドを使える人が周りにいなかったんですよ。純属性だけでもフォレボワ以外では殆ど見かけませんし、やっと、どうにか純闇属性を見かけてもクレリックって、本当にいないんですよねぇ」
地雷扱いされているのは、身を以って知っていたが、純闇のクレリックはどんだけ厭われてるんだと、思わずにはいられない。
「結果、近くて、全く違うということが分かりました。同質なのは同質なのですが、全く違うんです」
「んーと、アレです。犬っぽい猫と犬みたいな感じです!!見た目とかは同じなんですけど、全く違うんです」
「ああ、なんとなく分かった」
「それで、私たちは生成系は薄いのではと思うようになりました。次の可能性として、召還系、あるいは転送系を疑うようになったんです」
そこでいきなり生成系を却下するのは早すぎる気もしないでもないが、実際、転送系だったわけだ。
「それで、転送系だとして、仮定していたことがあるんです」
「なんだ?」
これ以上の衝撃は早々あるまい。
「転送元はおそらく、過去です」
「は?」
シャルロッテの言葉に戸惑いが隠せない。そりゃあ、異世界だの言われるよりマシだが。これが、過去から転送されたって事は五千年以上前から送られたことになる。
「同質加減からして、元は同じモノが進化の過程でわかれていったと考えられます。恐らくは、一万年くらい前に枝分かれしたかと」
「え?」
「これが、私の仮定です」
ちょい、シャルロッテさん、あっけに取られている俺をおいて、すっきりした顔をするな。
「クラウディオさんのおかげで、長年の疑問の半分以上が解決しました」
おい、待て、あの「とりあえず」のカース・ガイドが、まさかの大変なことになっている。この展開のせいで、あの軽いノリが悔やまれる。いや、知らなかったので重々しくできる訳もなかったけれども。
「ああ、でも、時空飛んでるかどうかなら、ヴェントの迷宮にカース・ガイドかければ、もう少し詳しく分かるかもな」
ここも新しい方とは言っても、発見されて十年も経過している。いくら、スキル熟練度があっても、調べられることには限度がある。
「クラウディオさん!」
ぱあっと、シャルロッテが明るく笑ってくれた時だった。
「クロ助ぇえええええ!!!」
蟹系モンスターのダズル・キャンサーに追われる、アリスとMが風属性並みの速さでこっちに逃げてきた。
遊ぶのは良いが、マジ空気読めよ。
俺はナスターシヤを背後にかくまうと、戦闘に参加するのだった。




