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清々しい朝は、下着一枚で俺にしがみついて寝ていた、アリスとマルガレーテによって、吹っ飛んだ。
押し出されたのか、避難したのか、俺の隣で寝ていたナスターシヤはシャルロッテの側に移動していた。
「お前らなぁ」
アリスとマルガレーテの頭を掴むと、ごつんとそれぞれの頭にぶつけてやった。
「うう」
「まるがれーてのおーじさまのあいが、いたいですぅう」
そう言えば、Mはと見れば、洞穴の中央で大の字になって寝ていた。イビキはまあ仕方ないが、歯軋りまでしていた。こいつが将来、結婚できるのか不安になる光景である。
「おはようございます」
アリスの呻き声が煩かったのか、いつの間にかシャルロッテが起きていた。ふああと、欠伸する姿が可愛らしい。
その後は、ナスターシヤが起きて、朝食が終わる頃にMが起きた。何度声をかけても起きなかったMは、あやうくここに放置されるトコロだったのだが、言わぬが仏だろう。
仕度が終わった後は迷宮を奥に進む予定である。
ナスターシヤがいるので一度町へ戻る選択肢もあったのだが、金欠が切実なのが二名いるだとか、俺がナスターシヤのカバーが可能だとか、マルガレーテが探索に長けているので、まともにしていれば、危機回避可能だとかを考慮した結果、進むことになった。
何度か雑魚を蹴散らし、昼前にこの界隈で一番多きな広場についた。
崖から落ちた滝と沢が涼しい広場だ。相変わらず、モンスターがいなければ、キャンプにもってこいの爽やかさである。
「マルガレーテの王子様、ここ、とっても、良いところですね」
「コンフュージョン・ホーネットの死体の山を見ながら言えるお前が凄ぇよ」
「……水、飲む」
「のどが渇いたんですね。どうぞ、ナスターシヤちゃん」
沢を凝視するナスターシヤにシャルロッテが苦笑しながら、水をわける。
沢でクロールをしようとして、砂利を掻き揚げるMについては何も考えてはいけない。あいつのメイル、水着みたいなもんだし、大丈夫だろう。
「うう、わたしも泳ぎたかった」
「あれを泳いでいると形容するお前も相当だぞ」
嘆息していると、ぼおっとするシャルロッテに気がついた。こんな場所でめずらしい。
「大丈夫か?」
「え?あ、はい」
「ちょっと、シャルロッテ、本当に大丈夫なの?」
ぼんやりとした返事にマルガレーテも、心配しだす。
「大丈夫ですよ。若い迷宮だなって、思っていたんです」
「ああ、それかぁ」
シャルロッテの返事にマルガレーテが納得する。
「私の出身のネーベルの迷宮は、もう街に飲み込まれたって感じですから」
「ああ、迷宮内にまで街が広がってるってやつか」
最初の迷宮であるネーベルの迷宮が発見されたのが五千年も昔である。そんだけ時間があれば、探索どころか、開発もいくとこまでいっているだろう。
「あの、クラウディオさん」
「なんだ?」
「迷宮全体にカース・ガイドってかけることできますか?」
「は?」
言われた意味が分からず、首を傾げてしまう。
「その、この迷宮全体に、カース・ガイドをかけるんです」
「多分、できると思うが」
とりあえず、やってみるのが早い。カース・ガイド如きで大事にはならないだろう。
範囲が範囲なので、集中してスキルを使う。
「え?」
出てきた結果に俺は、言葉を忘れた。
ちょっと待て。
なんで、“転送”系の術がかけられた結果が出てくるんだ。
「どうか、しましたか?もしかして、転送系でしたか?」
「なん……え?どういうコトなんだ?」
「誰がドコから何のために転送しているのかは分かりません」
そうじゃないが、なんと言って良いのか分からない。
俺が真っ白になっていると、マルガレーテやナスターシヤどころか、遊んでいたアリスとMも不安そうにこっちにやって来る。
「クロ助、大丈夫?」
「俺は大丈夫だが、大丈夫じゃない」
「うん、ケロの字、大丈夫じゃないな」
動け俺の頭。真っ白になっている場合ではない。
「おにいちゃん」
ナスターシヤがローブの裾を握って、不安そうな目を向けてくる。
「シャルロッテ、俺にわかるように説明してくれないか?」
「そうですね。マルガレーテちゃん、頑張りましょう」
「ここで、あたしに振る?!」
とばっちりだとシャルロッテに文句を言うマルガレーテも何か知っているらしい。
ひとまず、俺たちは二人の冒険者から話を聞くことにした。




