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ボス部屋を抜けると、迷宮の様子も変わってくる。
洞窟と言うには、天井の穴から注ぐ日の量が多い。かと言って、岸壁に挟まれた谷と言うには、天井を覆う岩が多い。
植物も相変わらず多く、小川も流れているので、風光明媚な場所である。相変わらず、鬼畜な雑魚さえいなければ。この一帯に出現するのはダークネス・スパイダーの子供のベビー・スパイダーだが、雑魚とは言え、そこはボスの子、全状態異常持ちなどという鬼畜さだ。
M錯乱はシャルロッテによって防止されているため、スタスタ進む。
などと、歩いていると、ベビー・スパイダーが出現した。嬉々として襲い掛かるアリスは、どちらがモンスターか分かったものではない。
Mの様子はと、見ると、ワナワナ震えていた。おかしい。ファントム・ミストはちゃんと掛かっているはずだ。
「……おい?」
「あ……赤ん坊を切り殺すのは、さすがに、できないよ!!」
嫌な予感がした俺はシャルロッテを見やる。
俺の視線に気がついたシャルロッテは首をかしげた。可愛いが、多分、こいつが元凶だ。
「Mに何を見せてるんだ?」
「無難に人間にしました」
「全然、無難じゃないだろ?!それ!!」
「他に苦手な物があると困ると思ったので、まず間違いなく平気そうな人間にしてみたんです。今まで出現した蜘蛛系以外は大丈夫なのでしょうが、下手に同じ系統だと、混乱しますし」
「お……おう」
思わず納得してしまった。やばい、人間が無難に思えてきた。いや、よくない。
「でも、道徳的にまずいだろう?」
「そこは慣れでしょうか?」
「慣れたら、もっと、やばい!!つか、人間とモンスターの区別がつかないとか大問題だろうが!!」
「ああ、それは問題ですね。分かりました」
うすうす気がついていたが、シャルロッテは天然だ。それも悪い方向に。
しかし、恐ろしいのは、それでもこの中ではマトモな部類なところだ。どんだけ、他がぶっ飛んでいるのか考えたくない。
「うぅうううわぁああああああああ!!」
ブチブチとアリスがベビー・スパイダーを叩き潰す横で、Mが叫び声を上げる。相変わらず、獣の咆哮のようだ。さすがに、マルガレーテも引いている。
「今度は何にしたんだ?」
「人間と区別するために、頭は人間のまま、体をラットに、尻尾をヴァイパーに、足をスコーピオンに、背中にバットの羽に変えてみました。これなら、他のモンスターとも混同することはないでしょう」
「シャルロッテ、実は結構えぐいよね」
「私的には、殺すのを躊躇わない範囲での可愛さを追求したつもりです」
駄目だ、このウィザード、幻術使いとしてセンスが絶望的にない。ここにきて発覚した事実に頭痛がする。
いや、よく考えたら、これだけの冒険者ウィザードがどこのPTにも所属していない時点で、地雷扱いされる要素を持っていると気がつくべきだった。
はあと、嘆息して、Mを見ると、いつの間にか正気を取り戻し、普段通りにベビー・スパイダーを駆逐し始めていた。立ち直り早いな。別に良いけどさ。
「今度は大丈夫そうですね」
「……そうだな」
Mが言いのならば、俺は何も言うまい。おかしいのは俺のセンスなんだろうか。
一通りベビー・スパイダーを倒したあとは、稼ぎ場のコンフュージョン・ホーネットの巣へと、まっすぐつき進んでいった。




