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夜明けのギルドに行くと、カウンター脇に檻が放置されていた。犯罪者護送用の檻は初めて見たが、スキル無効など施されている。シャルロッテ曰く、ギルドの技術の結晶らしい。
ただ、現在その檻には灰色の物体が突っ込まれている。考えるまでもなく、名状しがたい冒涜的な着ぐるみだ。
「これ、装備品入れるモノなのか?」
「そんなワケないじゃないですかー」
「私も初めてみました」
ギルドに詳しい二人が応えてくれる。やはり普通じゃないらしい。
しかし、恐ろしいことに異常とは思えないホドには、やばい装備なのだ。
「ココまでしてモ、不安ハ残るがナ」
忙しくクレーターの事後処理を片付けていたフォレボワ・ギルドの受付嬢は、手が空くとカウンターにやって来て、そうのたまった。
そして、その発言には俺も同意なので、引きつった笑みで返すしかなかった。
「そのマリアさんについてなんですが……」
俺が切り出そうとしたとき、ギルドの入り口から物音がした。振り向くと、土だらけのヴェント・ギルドの受付嬢がいた。そういや、ここの正式な受付嬢はこの人だったな。
「ふぅ。とりあえず、クレーター埋めといたわ。ああ、アタシの睡眠時間が!!寝不足はお肌の敵なのに!!リア充滅べ!!」
「アンジェリカ姐さん落ち着いてください!!」
「姐さんはとっくに手遅れです!!」
「やっぱ、俺らも将来こうなるんだろうな!!くそ、泣けてくる!!三次は所詮惨事、三次は惨事、惨事ぃ!!」
クレーター・事後処理(物理)を終えた受付嬢と、こんなときもチュニック覆面を忘れない愉快な青年団が入ってきた。おそらく夜中の力仕事的に親衛隊のじいさんたちには協力をあおがなかったのだろう。
「帰っテ来たラ、報告書ヲ書ケ」
「鬼だぁああああ!!姐さんの肌は息してないんだぞ?!」
「姐さんの肌は手遅れなんだぞ?!」
「もう、取り返しつかないんだぞ?!年齢的に!!」
つか、青年団のフォローがヴェント・ギルドの受付嬢にとどめを刺しにかかっている。
「ふっ、こんなのアタシには致命傷ていどよ」
「分かっタ、帰っテ休メ」
ウツロに笑うヴェント・ギルドの受付嬢に、フォレボワ・ギルドの受付嬢が生暖かく言う。
「やさしさがつらいわぁ」
ぐはっとヴェント・ギルドの受付嬢がその場に崩れる。
「「「姐さん!!」」」
掛け合いが始まったところで、俺たち(フォレボワ・ギルドの受付嬢含む)はキモチを切り替えて、さきほどの続きを話す。
「話が中断しましたが、マリアさんに発注をかけようと思うんです」
俺はそう切り出すと、サウナ上がりに話し合ったことをフォレボワ・ギルドの受付嬢に伝えた。
「なるほド。それハいいガ、輸送ハどうすル?」
フォレボワ・ギルドの受付嬢の言葉に俺たち全員が檻を見てしまう。アリスまでガン見していたあたりが笑えない。
「うう、数日ならアタシだけでギルド運営しているから、直接取りに行ったらどうかしら?どの道、ほかの装備も届かないことには仕事だって少ないんだし」
床に転がったままのヴェント・ギルドの受付嬢がフォレボワ・ギルドの受付嬢を見上げながら言う。結構シュールな光景だ。
「そうだナ。ワタシが直接取りニ行こウ。マリアなラ、半日デ作ルだろウ」
フォレボワ・ギルドの受付嬢が頼もしすぎる。
「馬車なラ急いでモ数日かかるガ、ワタシが走れバ、一日デ着ク」
なんか人外じみたことを言っていた気がするが、そこはスルーして、俺たちはマリアさんへの装備発注をフォレボワ・ギルドの受付嬢に託したのだった。




