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もはや「バニップの子供」とかの表現の方が近いんじゃないかと思うほど、醜くいペンギン着ぐるみに袖を通したわけだが。
「なんで、ぬめってんだよ?!」
「ぬめりだト?!」
爬虫類的な感触に鳥肌が立つ。マリアさんのことだから、鳥肌立たせるためにワザとこんな感触にしたんだろう。
「って言うか、清涼感ってこの爬虫類的感触のことかよ?!」
何気に、ひんやりとしたぬめりは、一向にぬるくなる気配がない。地味にこの辺にも技術を全力投球したようだ。あのヒトの努力の方向性は亜空間に向かっている。
とりあえず、感触にも耐えて歩こうとするが、普通に歩けない。
「これ、歩けないんですけど」
「そのデザインは歩けなイだろウ」
デザインもさることながら、ぬめりで足がすべる。というか、これ、滑る床のトラップ仕込んでやがるっぽい。装備内にトラップとか、考えるまでもなくギルド回収品だろう。
「あの、落ち着いて聞いてください。これ、滑る床のトラップ仕込まれてます」
「把握しタ」
仕方がないので、飛行を試してみる。恐らく強制的に飛行をさせるための仕込みなんだろう。
ヒレ的な手を軽くパタっと動かしたときだった。
人体の限界に挑戦する勢いで前に進んだ。アレ?と思ったときには町を遮蔽するポプラ並木を吹っ飛ばして、クレーターの上に着地していた。
「「…………」」
あまりの衝撃に俺たちは無言になる。
「って、アウトー!!ない!!これ、自爆兵器だろ?!」
「まさカ、ここまでノものだト思っテいなかっタ。怪我ハないカ?!」
受付嬢も慌てて俺の方にやってくる。
これ以上は町に被害が出そうなので、着ぐるみと言う名の兵器を脱いでいると、マルガレーテがやって来た。
まあ、クレーターを作った時点で相当な騒音を出していたんだろうから、当然の成り行きではある。
「マルガレーテの王子様!!大丈夫ですか?!」
本当に心配そうな顔で飛び込んでくるので、邪険にできず受け止めようとするが、<力>初期値では当然のようにひっくり返る。
「大丈夫だ」
精神的にはもの凄く大丈夫ではないが。
「悪いガ、そいつヲ風呂ニ入れてやってくレ。後片付けハ、やっておク」
「任せてください!!愛妻として体の隅々まで洗ってさしあげます!!」
生臭さは気になるが、それ以上にマルガレーテと風呂は俺終了のお知らせでしかない。主に精神的な意味で。
「凄い音がしたので、ナスターシヤちゃんと来てみたんですが、なにがあったんですか?」
そんなこんな話している間に、ナスターシヤを連れてシャルロッテが迷宮から出てきていた。アリスとMを置いてきたのは正しい判断だろう。迷宮内トラップ的に。
「あ、シャルロッテ!!」
「凄いクレーターって、そのもっふもふな着ぐるみ!!」
周囲を観察していたシャルロッテは受付嬢の手の中にある着ぐるを見ると、顔を赤らめて喜ぶ。
「なんんて可愛らしいペンギンの着ぐるみなんでしょう!!」
「おい、待て!!可愛いって、このインスマス面の名状しがたい着ぐるみがか?!以前に、ペンギンに見えるって、どういう目をしているんだ!!」
突っ込みが追いつかない。
「マルガレーテの王子様、シャルロッテは独特なセンスの持ち主ですから!!」
多分このセンスは独特で済ませてはいけない。
「……風呂なら、サウナ使うといい」
収集がつかなくなったあたりで、ナスターシヤが提案してきたので、俺たちはひとまず受付嬢と分かれて、迷宮内の居住区画へ戻ったのだった。




