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ギルドに行けば、フォレボワ・ギルドの受付嬢が書類仕事を片付けていた。どこぞの受付嬢は爪の垢でも煎じて飲むべきである。
俺とマルガレーテがカウンターに向かえば、それまでペンを走らせていた手を止めて、こっちを向いてきた。慣れてはいても、迫力に半歩下がってしまうのは生物としての本能だろう。
「忙しいところすみません」
俺が言うと、受付嬢は野太い嘆息をこぼす。
「休めト言っタ。全ク、なにガ起きタ?」
一目でイロイロばれた。いつも思うのだが、この受付嬢は純火ではなく、純水の間違いなのではないだろうか。しかし、物理攻撃の威力を思い出して、やっぱり純火だと納得するのだった。
「って、マリアさんに連絡取れますか?」
俺がそれだけ述べると、あれこれ察してくれた受付嬢が小包を取り出す。
「お前宛てニ預かっテ来タ」
しかし宛名は見事に「クロロフルオロカーボン様」だ。原型が行方不明になりかけている。
「いや、これ、クロロなんとかさん宛て……」
「フォレボワのクロなんとかハ、お前のことだロ」
今後フォレボワの住人と俺の名前について話し合う必要がありそうだ。それ以前に、俺の両親がアレな惨状なので、無意味に終わる予感しかしない。
「マルガレーテの王子様、ファイトです!!」
現時点でナスターシヤの次にマトモ……マシな呼称で呼ぶマルガレーテに励まされた。
「因みニ、クロード爺さんハ、近所どころカ、周辺ノ村々デ有名なエロじじいだっタ」
追い討ちをかけるように。知りたくもなかった事実を聞かされた。つか、あの親ども息子になんという名前をつけてくれてるんだ。
「もう、クロなんとかでいいです」
いろいろ敗北した気がする。
これ以上考えると、精神が病むので、今は小包に集中する。
マリアさんからの小包を開けるのは勇気が要るというか、開封に万全の体制が必要なので、受付嬢に手伝ってもらう。
「すみません、これを開封したいので、郊外まで来てもらえませんか?」
「最初かラそのつもりダ」
少々遠い目をする受付嬢もマリアさんの道具の被害者である。主に書類関係の仕事量産的な意味で。
「マルガレーテはここで待っててくれるか?」
万が一に備えて俺が言えば、フォレボワで散々マリアさんの道具の恐怖を味わったマルガレーテはすぐに承知してくれた。
「そうですねー。迷宮にクレーター作る道具を作っちゃうヒトの小包ですもんね!!」
「ある意味テロだナ」
あのヒト、本当になんでギルドの討伐対象にならいんだろう。
小包を持って、郊外に向かうと、ヴェントの町方向が木々で遮蔽されている場所で開封を試みる。
回避が高い俺が開けるのだが、いざというときのために、すぐ横に受付嬢が張り付く。小包一つになんでこんなに労力をさかなければいけないんだとか、思うことはあるが今は荷物に集中する。
グルグル巻きの紐を解くと、小包が倍以上に膨れた。
思わず、戦闘態勢に入る俺と受付嬢だが、膨れただけで爆発だとかはしない。
「これ、ギルドのトラップ処理班呼んだほうが良い案件じゃないですか?!」
「マリアがやることハ、大抵トラップ処理班ノ案件ダ」
流石に受付嬢の声がこわばっている辺り、マリアさんのやばさがうかがい知れる。あのヒトを見ていると、アリスのあれこれが可愛く思えてくる。
「これ、放置できないし、あけるしかないよな」
俺は覚悟を決めると、再度開封にとりかかった。




