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プリちゃんの案内のもと、ビートがあるという場所へ向かったわけだが。
「俺の知ってる赤蕪と違う」
俺の目前にあるのは、巨大ヒヨコばりに大きな蕪の群生だった。ぶっちゃけ、、事前にビートという情報がなければ、ただの斬新な迷宮である。
「……抜くのは無理」
愕然としているのは俺だけで、ナスターシヤはさっさと、巨大ビートを刃物でえぐっていく。食べたい量を持っていくつもりだろう。シャルロッテがいなくて、本当に良かった。
「って、これ、葉は地上に出てるんじゃないか?」
とりあえず、ナスターシヤとプリちゃんが収集しているのを眺めていた俺は、巨大ビートが天井を突き破って伸びているのに気がつく。
「……地盤弱いから、上からの探索は無理」
俺の呟きに気がついたナスターシヤが、群生の合間を指す。
見れば、普通の猪の死体が転がっていた。温度が低いためか、腐敗していないため、転落死したのだと分かる。
「これ、ビート動かしたら大惨事だろ」
「……同じビートばかり削るのは駄目」
暫くすると、ごごごと地鳴りがする。どうやら、この辺りも地形変化があるらしい。マルガレーテがいれば正確なマッピングができるのだが、仕方がない。
閉じこめられる前に、ビート取りを切り上げて、居住区画へ戻る。
途中、巨大ヒヨコのボス部屋を通るので、ナスターシヤが一歩間違えたら動物虐待の戯れを堪能したが、俺の精神衛生上詳しくは述べない。
もう少しで、居住区画というところで、ナスターシヤが俺のローブを引いた。
「……大きな蕪の民話」
「民話がどうしたんだ?」
「……ウダール・モールニの民話。ヴェントに類似の話ない」
プリちゃんの抱えるビート(数十人分はある)を見ながら、続けたそれに、俺もナスターシヤがナニを言おうとしているのかを察した。
「そうか、この巨大ビートがヴェントの迷宮にあるのが不自然なんだな」
俺が言えば、ナスターシヤがこくんと頷いた。
ますます、この迷宮自体がウダール・モールニに続いている可能性が高くなる。
帰るとまず、シャルロッテにそのことを告げた。
際どいというより、もう着る意味が分からない下着を選んでいたシャルロッテは、俺とナスターシヤの話に考察を始めた。これによって、ボルシチ作りはプリちゃんに一任されることになったので、大量生産の惨劇は防げた。
「そうですね。そもそも、山脈を挟むので、植物も動物も完全に別種がいるものと思います。今後、ウダール・モールニ付近に生息するモノがベースになっているモンスターが出てくれれば、ほぼ確実に向こうと繋がっていると断定していいと思います」
きりっと、言ってのけるが、その手元にはアレな下着のカタログがある。いっそ、シュールな光景だが、突っ込まない。
「マルガレーテの王子様!!届くのを楽しみにしていてくださいね!!」
「クロ助!!すっごく一杯種類あるんだね!!」
イロイロ台無しだが、とりあえずはこっそり迷宮内を調べることにする方向で話をすすめ、ボルシチの完成を待った。




