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飛び散る雑魚の破片が、降り注ぐ日差しによってキラキラ光る。キレイダネーと遠い目をしたくなるくらい、木っ端微塵になって飛び散っている。
アリスだけでもアレだったのが、似た系統のMが加わったことにより、残骸すら残さない勢いだ。トラウマが再燃どころか、上書きされそうである。
「お前ら、素材集める気ないよな」
回復のために、ドレインで仕留めた雑魚から剥いだ素材は、シャルロッテとマルガレーテに譲っている。そのため、アリスもMも大して稼げていなかった。
トラップがあった場所から少し奥まった場所の分かれ道を、先ほどとは逆に行けば、この界隈のボス、大蜘蛛系のダークネス・スパイダーがいる。ボスと言っても、フォレボワの迷宮最弱だ。俺のドレイン一発で沈む程度である。
ダークネス・スパイダーの良いところは、高額取引される素材が、糸であることだ。本体をぐちゃぐちゃにしてしまうアリスにとって、本体とは別の巣が素材になるダークネス・スパイダーは稼ぎにもってこいである。
ちなみに、あの一方通行地獄を隠し部屋の方へ抜けると、蜘蛛系のパラライズ・スパイダーの住処がある。こちらも、糸が素材になっているが、取引金額は、デス・スコーピオンの殻よりマシ程度だ。
「やった!やぁっと、ボス部屋ついたぁ」
「久々だな」
ボスがいる広間の入り口付近で、アリスとMが準備を整える。と、言っても、それぞれの得物の刃をなめし革で拭ったりするだけだが。
「それじゃあ、アリス、いっきまーす!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アリスは良いとして、獣のような雄たけびをあげながら突入するMは、女以前に人間としても色々ギリギリだ。
「Mさん元気ですね」
「元気と言うか、アレ野性とかナンとかだろう」
「マルガレーテの王子様、ボスだなんて、あたし、怖いです」
しっかり周囲に敵が居ないことを確認した上で、腕を組んでくるマルガレーテは、絶対に怖がってなどいない。いざというときに、行動できる範囲での接触に留まるあたりが、いっそ、すがすがしいくらいのセリフと行動の乖離っぷりだ。
「と言うか、クラウディオさんは行かないんですか?」
「トラウマは少ないに限るからな。あと、アリスなら、よっぽどのことが無ければ、てこずらないだろうしな」
「マルガレーテの王子様、それ、多分、フラグですよ!」
マルガレーテが不吉なことを言ったときだった。
「クロ助ぇええええ、ヘルプ!!へるぷぅううううううう!!」
アリスの大声がした。日頃、宿屋を震わす声量はたいしたものだ。
スルーしたいのをこらえて、俺もボス部屋の広間に乗り込む。
「…………おい」
錯乱するMと弱ったダークネス・スパイダーと、Mから逃げ回るアリス。まさにカオスな光景だった。
とりあえず、Mとダークネス・スパイダーをシャドウ・バインドで停止させる。
アリスもMもHPを減らしていたので、丁度良いと、ドレインでダークネス・スパイダーを仕留めた。
一応、Mをカース・ガイドで状態異常がないか見れば、術などは何もかけられていない。ならばと、背後からどついて、正気に戻したあと、シャドウ・バインドを解く。
「落ち着いたか?」
「ああ、カッコ悪いとこ、見せちまったね」
「それは良い……アリス、シャルロッテとマルガレーテ呼んで、素材集めてろ」
「うん!!」
ダークネス・スパイダーの巣とMを交互に見ていたアリスは、俺のセリフに元気よく返事した。
「あのさ、ケロの字」
「なんだ?」
「あたい……あたい」
急に、Mがワナワナと震えだした。何事かと思ったのは俺だけではなかった。入ってきたばかりのシャルロッテとマルガレーテも驚いた顔をしている。
「蜘蛛がこの世でいっちばん苦手なんだよぉおおおおおおおおおお」
Mは、うぉおおおおおおおおおおと咆哮をあげた。案外可愛いカミング・アウトが台無しである。
「お前、何で闇属性の迷宮に入ったんだ?!アホなのか?バカなのか?」
「どっちも、良く言われるな」
きりっとドヤ顔で、そんなことを言うMは間違いなく、色々大丈夫じゃない。主に頭の中身が。
「言ってくだされば、ファントム・ミストかけましたよ」
採集を終えたシャルロッテがMの近くに来ると、そう言った。ファントム・ミストは水属性スキルで相手に幻覚を見せるスキルだ。普通は成りすます時などに使うが、苦手なモノを別のモノに見せることもできるので、Mのような人には充分有効なスキルである。
それにしても、アクア・ベールといい、ファントム・ミストといい、シャルロッテは幻術系のウィザードなのだろう。
「マジでかい?!」
Mはシャルロッテの両手をがしっと掴む。
「はい。更に奥へ行くのでしたら、また蜘蛛系のモンスターに出くわすと思いますし」
「頼む!!」
「分かりました」
交渉成立といったところか。
シャルロッテがファントム・ミストをかけている間に、アリスとマルガレーテも素材集めを終えた。
とりあえず、M錯乱フラグを折ったところで、さらに奥へと向かった。




