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愉快なおやつ時を終えると、俺たちは時間をもてあます。
なお、親衛隊のじいさんたちは、シャルロッテからカタログを借りると、凄い勢いでギルドへ走って行った。その速度は多分、俺より速いんじゃないかという俊足ぶりだった。
取り残されたヴェント・ギルドの受付嬢が呪いの言葉を現在も延々と呟いているが、新手のBGMとしてスルーする。
それはそうとして、フォレボワ・ギルドの受付嬢から休息を言い渡されてはいるが、迷宮探索がしたくて堪らない。
そもそも、俺もアリスも迷宮探索が趣味と言っていいくらい好きであり、冒険者なんてことをやっているシャルロッテもマルガレーテもMも迷宮探索を好んでいる。
「探索準備と言っても、防寒具を見ないとできないし、どうするかな……アリス!!」
ぼそっと俺がこぼせば、シャルロッテとマルガレーテが喜んで口を開きそうになったので、アリスに話を振る。
「ポーカーやろう!!」
「町の人を集めて、ポーカー大会なんてどうだい?」
こいつらに話を振ったのが間違いだった。
「……有害図書以外の蔵書」
俺が頭を抱えていると、それまで、おとなしくしていたナスターシヤがぼそっとのたまう。
「有害図書以外にあるのか?」
テイスティ・マーモットの件で見つけた、プリちゃんの書物捨て場を思い出しながら言えば、ナスターシヤがこくんと頷く。
「……地下街道がモトなら、埋まった商取引記録、絶対にある」
「そうですね。落盤がどの頻度であったかは分かりませんが、結構埋まってそうです。そもそも、なんで、あんなに有害図書があるのかの方が疑問なんですが」
ナスターシヤの発言に同意しながらシャルロッテが続ける。まあ、冷静に考えると、あの充実具合は普通じゃない。どうせ、当時のヴェントの男たちが、地下洞窟に隠してただけだろうけれど。
「プリちゃんに頼んでみるか」
「……ナスターシヤが行ってくる。迷宮が家」
確かに、ナスターシヤならば、迷宮内のモンスターの攻撃を受けない上に、トラップを回避するのに充分なステータスがあるので、一人で行かせても問題ないだろう。ギルドへの報告も、帰宅という充分な理由が言える。
「いや、全員で行こう。ギルドにはナスターシヤの帰宅ってことで、報告すれば大丈夫だろう」
間違っても焼肉大会ができるくらいにモンスターを狩るのはアウトなので、脳筋二名の監視はしっかりやらないと駄目だ。
「そうですね。プリちゃんだけだと、不安がありますし」
憂い顔でシャルロッテが言うが、それは俺も同意だ。あの変態藁人形のチョイスに任せれば、ナスターシヤに見せるのがためらわれるようなブツを取引した記録を持ってきそうな気がしないでもない。
「青年団に協力してもらえれば、あの部屋も調べてもらえそうなんだが。そうだ、アンジェリカさん、護衛するんで青年団の迷宮通過って可能ですか?」
ぶつぶつ呪っていたヴェント・ギルドの受付嬢が、死んだ魚の目でこっちを見てくる。
「民間人の護衛ってことで、青年団側がギルドに依頼出せば可能だけど、Mさんのおじいさんに任せるのが手っ取り早いと思うわ。既に受諾済みだから」
どうやら、地下洞窟の探索の際に、迷宮内に侵入することも考えて、事前に許可を取っていたようだ。というか、イカガワシイ本狙いで迷宮侵入を目論んでいたとか言う理由は孫娘の精神衛生上ナシでお願いしたい。
「それじゃあ、Mのじいさんにも声かけて、資料探しをするか」
尚、いい暇つぶしが見つかったと喜んでいられたのは、プリちゃんが大量に風俗関連の記録を持ってくるまでだった。




