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キッチンに向かえば、アリスとMが満足する量を作ると宣言したとおり、おびただしい数のアップルパイがテーブルどころか、そこらじゅうを占拠していた。
どこからか集まってきたヴェントの子供たちが、目を輝かせながらアップルパイを食いつく姿は微笑ましい。
「マルガレーテの王子様!!子供って素敵ですよね!!」
「クラウディオさんも子供っていいと思いませんか?」
俺の左右に張り付いて、催促してくる二名がいなければ、和めた。
「だから、そういうことはだな」
「コルンバーノの子供ということは、ひ孫だねぇ」
俺の発言をぶった切って、祖母がのたまう。それも、物凄く嬉しそうに、だ。未だに親衛隊とヴェント・ギルドの受付嬢が居座っているため、非常にめんどくさい事態と化す。
「任せてください!!あたしが、元気な子をお見せしますから!!」
「マル美とシャル子の娘なら、お父さんもお母さんも満足してくれるね!!」
アップルパイを頬張った状態で、起用に明瞭な発音でそういったアリスだが、お前は本当にそれでいいのかと聞きたくなる発言だ。
「ともかく、今はアップルパイを食わせろ!!」
これ以上会話を続けるとロクなことにならないのは確実なので、俺も子供たちやアリス、Mに混じってアップルパイを食べ始める。
「そうですね。私たちも食べましょう」
俺の様子を見たシャルロッテがそういったので、一旦この話題は終わる。
ただし、こいつらの爆弾発言はこれに限ったことではない。
「そいえば、式場の確保できました!!予約票が届いたので、クラウディオさん、あとで日付の確認をしておいてくださいね」
静かに咀嚼していた俺は、噴出しそうになるも耐えて、盛大にむせた。
「式場っておい?!」
「ドレスのレンタルも無事申し込みできました。ナスターシヤちゃんは成長も考慮して、いくつかサイズを選らんだので、結構お高くつきました」
「クロ助、結婚式のドレスって高いんだね!!言うの忘れてたけど、わたしのお金じゃ無理だから、クロ助につけてもらったんだった!!」
「おい!!」
「マルガレーテの王子様、アリスさん以外はみんな自腹なので安心してください」
「いや、全額負担はやめろ。半分は出すって言うか、それ以前にナニやってんだよ?!」
どっからつっこんでいいのか分からない。
「クラウディオさん、花嫁さんというのは全女の子の憧れなんです」
「分かるよ、シャル子。カタログのドレス、綺麗だったもんね」
「このために貯蓄をしてきたと言っても過言ではないので、気にしないでください」
シャルロッテがきっぱり言い切る。
マルガレーテもMもナスターシヤも同意とばかり頷くが、アリスは「そうなんだ」と感心している。アリスは少し気にするべきだろう。
「まあ、結婚式だなんて素敵だねぇ。ヴェントだとそういう概念がないからねぇ」
俺たちの様子を見て、祖母が呟く。
「「「「「申し訳ないが、カタログを貸してくれんかの?!」」」」
ソレを見た親衛隊のじいさんたちが、素早く反応した。気持ち悪いハモリ具合に、俺は地味に噴出しかけ、やっぱり耐えて、ひっそりむせた。




