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準備を整えた俺たちは、探索という名目の食料調達を開始した。
居住空間では、プリちゃん人形がナイトキャップをかぶって、お休みスタイルだったりもしたのだが、あえてスルーする。お前トラップだろとかイロイロ突込みが追いつかないのだ。
シャルロッテにナスターシヤを居住スペースに残すと、残りの四人で徹夜で更なる奥を目指す。
「わぁ、食べ放題だね!!」
キラキラとした目で言うアリスの視線の先には、牛系と思われる未登録モンスターが群れていた。丸々と肥えた姿が、結構おいしそうだ。
アリスとMがウキウキしているが、一つ不安がある。
「この先に大型のモンスターがいます!!」
受付嬢に貰ったマップとモンスターリストを見比べている俺にマルガレーテが報告してくる。
「アリス、M、下が……」
言い切る前に、物凄い速さで何かが迫ってきた。
「あ、クロ助、大きなひよこだ!!大きくなったら、焼き鳥の食べ放題だね!!」
何かはひよこだった。但し、Mの倍は余裕である規格外サイズの。
俺たちのいる場所には侵入できないらしく、スッポリ壁にはまってくれた。邪魔だ。
巨大ヒヨコはすぽっとはまったまま、ピヨピヨ鳴く。鳴き声だけは、普通のヒヨコなあたり、倒し難い。
「ケロの字、このままじゃ、焼き鳥になる前に死んでしまうよ!!」
「せめて、若鶏くらいにならないと嫌だよ!!」
お前ら、わりとさっきまで大食いやってやがっただろ。つか、食うの決定なのかとの言葉を飲み込んで、ヒヨコを観察する。
ナニを考えているのかさっぱり分からない、つぶらな瞳でこっちを見ている。これを目の前に、食べようとするアリスとMの精神が怖い。
「ヒヨコってニョッキ食べますかね?」
俺が引いていると、背後でマルガレーテがぼそっとのたまう。
「大丈夫そうだが、これも多分モンスターだよな?」
「こんな家畜や野生動物はいないと思います」
マルガレーテは少し考えて、モンスターと判断する。
どうしたものかと、ヒヨコを見ていると、いきなり暴れ出した。
ばったばったと巨体が動いても、落盤する気配のない迷宮内はさすがだ。
「って、プリちゃん人形?!」
万が一を考えて周囲を見回していた俺は、ナイトキャップを被ったまま、疾走してくる藁人形を目撃してしまった。シュールなことこの上ない。
プリちゃん人形は巨大ヒヨコに近づくと、わったわったと動く。
これで巨大ヒヨコと意思疎通しているらしく、プリちゃんが一通り動くと、おとなしくなる。
ヒヨコが落ち着くと、今度は俺たちに何かを訴えてくるのだが、意味不明だ。
「クロ助、プリちゃんがヒヨコ押してくれって!!」
「よく分かったな」
何故かアリスには通じたようで、アリスの発言にプリちゃんが頷く。
「あたいに任せな!!」
Mは言うや否や、「はぁあああああ」っとドスのきいた掛け声とともに、ヒヨコにタックルをかます。あれ、普通にヒヨコの内臓終了のお知らせだ。
しかし、ヒヨコは耐久が可笑しいことになっているのか、ぽよんと向こう側にすっぽ抜けると、平気そうに動いていた。何気に光属性持ちのようだ。
自由になったヒヨコは、ぽてぽて首を動かすと、プリちゃんを見つけて、てててと歩み寄る。
「凄い!!クロ助、プリちゃん、ヒヨコが湧いて出るところ見たんだって!!」
アリスが興奮気味に言ってくる。
完全にプリちゃん人形が元凶だ。つか、この迷宮の異変の原因は「もしかしてプリちゃん」が過言じゃない気がする。
「とりあえず、牛の始末するぞ」
このままだと、新たな問題が出てきそうなので、片付けられるところから片付けることにした。




