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俺たちの目の前に、大量の骨が転がっている。
町のほぼ中央の開けた場所で、大食い大会は開催されていた。
「すっげぇ!!」
目をキラキラさせながら、子供たちが見ているのは、ありえない早さで大量の肉を食っているアリスとMだった。
その食いっぷりたるや、呼びに来たものの引き返したくなるほどだ。
こいつら無視して迷宮探索もいいんじゃないかと思ったところで、アリスが俺に気がつく。
「ふろふへ!!ひは、しょふひふう!!」
クロ助、今、食事中とかそんなところだろう。食いながら喋らないで欲しい。
「マルガレーテの王子様、アリスさんの何が凄いって、喋りながらも、食べるペースが衰えないところですよね!!」
「あれは、ある意味特技なんじゃないでしょうか」
マルガレーテの感嘆に、シャルロッテが感心したように続く。
「やー、あのねえちゃんたち、やっぱ凄いなぁ。やっぱ、赤毛のねえちゃんに賭けて良かった」
「くっそぉ、あっちの大男に賭けてたのに話になってないじゃないか!!」
そして、案の定、賭けごとをしている奴らもちらほら。
これ、下手に呼び出せない流れだ。
「……ナスターシヤ、あっちに賭ける」
「お、嬢ちゃんはあっちの金髪のねえちゃんに賭けるのか」
どうしたものかと考えていると、いつの間にか、ナスターシヤが賭博に参加していた。これ、完全にアリスの悪影響だ。
「ナスターシヤ、賭け事は大人になってからな!!」
慌てて引き戻そうとすると、賭け事をしていたおっさんたちに止められる。
「まあまあ、祭りの時ぐらいいいじゃないか」
「そうそう、おれらも、こんなお嬢ちゃんから巻き上げたりせんさ」
「……引き際は分かる。心配いらない」
じぃいっと俺を見上げながらナスターシヤが言う。無論、無表情で。
確かにナスターシヤならば、アリスのようにはなるまい。寧ろ、金を巻き上げる側だ。
「そうですね。では、私がナスターシヤちゃんと一緒にアリスさんに賭けましょう」
俺とナスターシヤの様子を見ていたシャルロッテが、申し出てくる。
「そうだな、シャルロッテと一緒なら良いか」
どうせ、決着がつくまでは、アリスとMを呼べそうにないのだ。暇つぶし程度ならば、問題はないだろう。
「それじゃあ、マルガレーテの王子様はあたしと一緒に賭けましょう!!」
「お、大きい嬢ちゃんも参加か」
見れば、シャルロッテもマルガレーテも、そして、無表情ながらナスターシヤまで楽しそうにしている。これは参加するしかない。
「ただ、俺たちは子供も混じっているので、金銭は控えたいんですが」
「おお、そうだな」
俺が申し訳なさそうに言えば、おじさんたちも、確かにと同意してくれる。常識のある人たちで良かった。
「なら、あたしたちは冷凍パテを賭けます!!」
シャルロッテの道具袋をガン見しながらマルガレーテが言う。お前、負けるほうに賭ける気だろう。俺も、その発言の後、負けそうなのを選ぼうと考えてしまったが。
「マルガレーテちゃんってば、勝手に決めてしまってと言いたいところですが、そうですね。丁度良いですね」
「おう、じゃあ、嬢ちゃんたちが勝ったら、一食分のメシをおごってやろう」
そのくらいのレートならばと、了承すると、俺とマルガレーテはかなり真剣に負けそうなのを選んだのだった。




