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サイレンスのおかげで、静かに食事をしてくれていると、パテを配り終えたシャルロッテが戻ってきた。青年団のサイレンス解除に待ったがかかったのは言うまでもない。
「お疲れさま」
丸太の片側に青年団、もう片方に俺、マルガレーテ、ナスターシヤが座っていたので、言いながらシャルロッテに席を譲る。
「ありがとうございます」
「はい、シャルロッテ、あたしのわけてあげる!!」
「……ナスターシヤも」
手ぶらなシャルロッテを見て、マルガレーテとナスターシヤが言う。
「ありがとうございます。明日、美味しいパテとニョッキを作りますね」
そして、さらっと恩を仇で返しやがった。表情筋が仕事放棄しているのが通常運転のナスターシヤが引きつった顔をしているあたりが、言葉の攻撃力の高さを物語る。
「いや、明日は俺の祖母が作りたいそうだ」
「そうだったんですか」
そんな話はしていないが、事後承諾だ。多分、俺が祖母の手料理を希望すれば親衛隊を動員してでもなんとかしてくれるだろう。
「ああ、今はこの肉を消費するぞ」
いくら衝撃的でもこの量は、俺としてもやりすぎた自覚はある。救いとしては、大食いのアリスとMがいることだろうか。
「それにしても、Mさん凄いですね。アリスさんが来るまで圧勝でしたよ」
パテ配りで、大食い大会の方にも足を伸ばしたのだろう。シャルロッテがしみじみと言った。
これ、食料枯渇防止になっている気がしないでもない。あの火属性どもは多分、イナゴの化身か何かと思え始めてくる。
「ああ!!肉!!」
げんなりと大食い大会が開催されている方角を眺めていると、町の入り口付近から聞きなれた大声がした。
「アンジェリカさんお疲れ様です」
俺がヴェント・ギルドの受付嬢に挨拶をすると、物凄い素早さでこっちにやって来た。おい、純土属性の早さじゃなかったぞ。
「一生懸命探索してたのに!!」
「ギルドの仕事ダ。コレの回収に来タ」
今にも俺に掴みかかろうとしたところで、フォレボワ・ギルドの受付嬢に回収される。
ふと、青年団を見ればガクブル震えていた。これ、サイレンスで余計なことを言えないのが、死亡フラグ回避になっているっぽい。
「それじゃ、俺たちもアリスとMを回収して迷宮に行くか」
言いながら、青年団どものサイレンスを解除する。
「土属性持ちなら大丈夫だと思うが、落盤の危険があるらしいから、気をつけろよ」
「くそ!!早くも父親気取りか!!」
「これだから、妻帯者は!!」
俺はこんな馬鹿でかい息子を持った覚えはないというか、こいつら下手したら俺よりも年上っぽいんだが。
「いや、冒険者として危険箇所の情報交換はするだろ?」
「ふっ、我々はヴェント青年団!!書物を守りはするが、非戦闘員だ!!」
「日中はだいたい日陰で寝てるんだぞ!!」
「夜は書物整理と清く正しいインドア派だ!!」
駄目だこいつら。
「……救えない。救いたくもない」
ぼそっと、ナスターシヤが言いながら俺のローブを引く。
「まあ、その、俺たちは行くから」
とりあえず、気を取り直してアリスとMの回収に向かった。




