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闇属性僧侶のあんまり平穏じゃない日常  作者: 水可木
二章 迷宮と探索の仲間
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 センサーか何か内臓しているんじゃないかと疑いたくなる正確さで、アリスは次々にトラップを発動させていった。最早、一種の才能である。とは言え、そんな才能は全く欲しくない。

 アリスが踏み抜く度に、蹴飛ばし、突き飛ばしで全力疾走しているため、地味に俺もしんどい。しかし、通路をふさがれる度に、抜け道(物理)を作るマルガレーテも大変そうだ。普段から近道(物理)を作っているっぽいので、なんとも言えないが。

「なんで、こんなにトラップ作ったんだよ?!あの武具屋!」

 ぜぇぜぇと息も絶え絶えになるころ、あらかた片付いた。

「うう、クロ助が容赦ないから、足を擦り剥いたよぉ」

「容赦してたら、お前、トラップの下敷きだからな?」

「そうですよ、アリスさん。本当に無事でよかったです」

「マルガレーテの王子様の、助け方にも容赦がないところが、素敵です!!」

 このまま進むと開けた広間につくので、そこで休むことにして、今は足を動かす。

 通路を抜けると、見慣れた広間についた。ここにはモンスターが出現しないので、稼ぐときなどはここを拠点にしている。

「ふー。わたし、頑張った!」

「そうだな」

 草花の上に四人で円になるように座る。マルガレーテはここぞとばかりに接近してきたが、避けるのも疲れるので、好きにさせた。それなりに活躍してくれたわけだし、コレぐらいは許してやる。

「どうぞ」

 シャルロッテが水の入ったコップを渡してきた。準備が良い。

「ありがとう」

「シャル子ぉー!!大好き!!」

「あたしの花嫁修業はシャルロッテに任せるわ」

「どういたしまして」

 照れるシャルロッテは可愛い。アリスもマルガレーテも少しは見習うべきだろう。

「それにしても……」

 シャルロッテが来た道があった場所を見つめながら言う。今は枝が結びついて、通行できない状態になっている。

「ここは、一方通行で、出口は反対側にある」

「隠し通路で、一本道の一方通行なんだよ!あと、そこ通ると、入り口の広場に出られるよ!」

 アリスの補足を聞くと納得したようだ。

「では、トラップを仕掛けた人は既にこの迷宮にはいなさそうですね」

 ふうと、シャルロッテが安堵の息をつくが、俺とアリスは顔を見合わせる。

 確かに、隠し通路を通れば、入り口まで戻れるが、それは「正解の隠し通路」を通った場合である。

 この広間には当たり前のようにダミーの隠し通路がいくつもあり、一方通行地獄になっていた。慣れた人間でなければ、まず、抜けられないだろう。

「マルガレーテ、アース・プローブでトラップの気配を探ってくれないか?」

「はいはいはい!!任せてくださーい!」

 立ち上がるとすぐにスキルでトラップを探し出す。

「あっちの方に一個あるみたいです!」

 マルガレーテが指したのはダミーの通路がある場所だった。

 トラップを仕掛けた人間が迷っている可能性が高い。

「ここまで来たら、回収行くぞ」

 休憩によって、疲れもなくなった。おそらく、シャルロッテの用意した水に滋養強壮の作用があったのだろう。つくづく、気がきく少女だ。

「頑張るよ!」

 うんうんアリスは頷くと、ダミーの通路へ入って行く。それに俺、シャルロッテ、マルガレーテが続く。

「慣れてらっしゃいますね」

「そりゃあ、散々通ったからな」

 駆け出しの頃にアリスと丸三日も彷徨ったことがあった。アレ以来、初めて通る道は俺が先頭で歩く暗黙のルールができた。

 よく全滅しなかったなと思い出にふけっていると、安定のアリスがトラップを踏む。

「頼むから、これがラストであってくれっと」

 アリスを突き飛ばすと、本日何個目か知りたくも無いトラップが発動する。

「マルガレーテの王子様!!ここ、変な術がかかっているみたいで、抜け道が作れません!!」

「消えるまで待つしかないな」

 ふと、アリスの方を向いて、驚いた。アリスはこっちを見ていて気付いていないが、そのだいぶ後ろに人が倒れていたのだ。

「アリス!後ろに人だ!!」

「え?って、あ、本当だ!」

 気付いたアリスが駆け寄る。

「残念!寝てるだけだよ!」

「それを残念がるお前の道徳観念が問題だ!」

 ちなみに、屍から装備を剥ぎ取るのは一応合法だが、屍以外の冒険者から装備を剥ぎ取るのはギルドの討伐対象になってしまう。

「ん?」

 寝ていただけとあって、人の気配に気付いたのだろう。倒れていた……寝ていた赤髪の冒険者が起き上がる。

 褐色の肌に、鍛え抜かれた肉体までは、許す。だが、そのビキニ・メイル的な装備は何なんだ。そもそも、鉄のプレートを地肌に触れさせて平気とか、どんだけごっつい肌してんだ。

 受付嬢と違って、人間を卒業しない程度に逞しい女冒険者は、茶色の瞳にアリスを映すと、感極まったように抱きついた。

「何日ぶりの人間だろう!!」

「うわ!クロ助!ヘルプ!ヘルプ!!」

 わたわたするアリスをスルーして、こちらを見てきた女冒険者の顔がぱああっと更に明るくなる。誰か、彼女を止めてやってくれ。

「人だ!人だ!うぉおおおおおおおおおおお!!」

 興奮して雄たけびあげる辺りで、女冒険者と形容していいのか考えてしまう。受付嬢に比べれば、まだ女よりだが、あっちは人類かも危うい。

「あたいはM・フロアザール。さすらいのガーディアンだ」

「俺はクロード・デュマだ」

「わたしは、アリス・ウィンザー」

「そうか、ケロの字にアリス嬢」

「……おい」

 どいつもこいつも、人の名前を何だと思っているんだ。

 と、漸く、通路を塞いでいた杭が消える。

 合流したシャルロッテとマルガレーテがMをまじまじと見る。

「おおおおお!!人がいっぱい!!」

「こいつはM・フロアザールと言うらしい」

 会話が進まないので、一人盛り上がるMをスルーして、勝手に紹介する。

「はあ、私はシャルロッテ・クレッテンベルクです」

「あたしはこのマルガレーテの王子様の愛妻のマルガレーテ・アウグストです」

 おい、待て、いつから愛妻になったんだ。

 二人が言い終わると、興奮が収まったMがにっこり笑う。

「本当に、独りぼっちで、どうしようかと思っていたんだ!」

「積もる話はあるだろうが、安全な場所まで移動するぞ」

 Mをなだめつつ、俺たちは一方通行地獄を抜けて、あの広間まで行くことにした。







 

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