無関心な恋愛ライフ―とあるバレンタイン―
いつも通りに学校に行く準備をしている俺だが、華音と水奈は浮かれていた。今日がバレンタインデーだからだ。俺はチョコなどもらえないくらい理解できている。
――二月十四日。
女子が男子にチョコをあげるとかで盛り上がる日であるが、今は友チョコとかをあげて女子たちで楽しむ日でもある。また、男子が女子にチョコを上げる逆チョコも流行っているというのをテレビのニュース等で見たことがある。それに毎年この時期になると、大騒ぎになるのが学校内だということだ。行事が好きな人たちばかりだ。
俺はいつも通りに冷め切っているので、リビングで朝食をとり、学校へ行く支度をしている。でも、二人はチョコを朝っぱらからカバンの中に詰めている。だが、中学校にももっていけないようで、隠して持っていき、放課後に渡すのがいつもらしい。
いつもは早い華音でも今日だけは特別。いつも以上に支度が遅く、俺は呼びかける。
「早くしないと、遅れるぞ。俺は先に行っちゃうからな」
「少し待ってよ。支度に時間がかかるの」
「たく、早くな。しょうがない奴だ」
俺は頭を抱えているが、華音は鼻歌まで歌って、機嫌がいい。いつもとは大違いと言うか、不自然と言うか。その辺は気にしないでおこう。
登校途中も、誰かにチョコをあげるかで、指を使って数えている。なんか、幼く見える。よく小さいときは数えていたなと。今は頭の中で考えてしまうので、あまり指を使うことはない。だから、少し新鮮に感じた。
学校へと着くと、鼻を伸ばした男どもであふれかえっている。そこら中見ていると、いつも以上に優しく接しているように見える。これが逆効果だと思わない方もどうかと思う。そんなときばかり、いい顔してもらえないのにと哀れに思えてくる。
階段を華音と一緒に上り、教室のドアを開けた瞬間、何かが動いたように感じる。いつもじゃあ、普通に接している女子がなんか、俺をいつも以上に見ている。何かあったのだろうか。
「おっす、和孝。今日はバレンタインデーだね。みんな朝からこんな感じだよ。チョコをもらおうと必死だ」
「そうか。俺は別にいらないんだけどね」
何クールなことでも行ったのか。俺と真司の周りに女子が集まる。
「和孝君。このチョコレート受け取って」
みな同じようなことを言っている。俺の目の前に現れたチョコレートは十個。真司の前にも十個だ。俺は女子の気持ちを考えて答えた。
「わかった。ありがとう、もらっておくよ」
「もらっておくね。ありがとうみんな」
いつも以上ににぎわいを見せる女子たち。俺と真司って、モテたって。頭をかしげてしまう。
チョコをもらったことを見ていた男子は不機嫌だ。あいつばかりだと思っているだろ。それが現実の厳しいところ。大変なところである。
いつも通りに授業と言っても、なんか、男たちの雰囲気がおかしい。チョコをもらえなくって、悲しいのかもしれない。目から涙がこぼれそうなやつもいる。毎年もらえてないんだというようなことがうかがえる。
うちの学校は特別なのか、バレンタインで実習授業へと変わった。なんと、調理実習になったのだ。普通では国語総合と数学Aなのだが、今日は急な授業変更で家庭に変わった。内を考えているのかは俺にはわからない。
実習室へと移動している途中に、男たちを見ると哀れに見えた。
「自分のチョコでも作ろうぜ。なんか、一つもらえたというような記念だ」
それを見ていた真司は厳しいことを言う。
「悲しい人たちだね。チョコがもらえないから自分で作るってか。相当なものだな」
「だよね。もらえないとなんか嫌なのはわかるけど、自分たちで作って浸るのもねぇ」
俺が相談していることが分かった男子どもは恨んでいた。
「ふざけんなよ。いい気になりやがって」
その言葉は俺と真司には届かなかった。
実習室では授業が行われていた。家庭科となると教師も女だ。二十代後半くらいで美人だ。さっきの男たちはゴリラのようにウホウホ言っているのだから。
教師は板書をはじめた。
「それじゃあ、授業へと入るわよ。いいわね。チョコレートを作るためには普通に市販を溶かすところから始めるの。それから、温かいお湯の上で溶かし終えたら、型に入れる。そして、冷蔵庫で時間を待ち、トッピングするというわけね。私は大目に作るので、頑張った男子にはあげちゃうかな」
今の発言で歓声が起きた。
「チョコレートもらえるとかいいじゃん。あの先生だぜ」
あまりにも必至と言うような感じが出ていて、とても残念な人たちと思ってしまう俺はやばいと思った。クラスの女子からは皆こう思われていた。
「キモイ。チョコレートもらうのに必死とかマジありえない」
怖いなと思ってしまう俺。あまりの毒舌にやられそうだ。何かを言い合っている間に、「はじめ」と言う合図が入った。
そういえば、俺の班は華音と真司と優梨愛がいる。
「それじゃあ、始めるか、和孝」
「だな。チョコレートを溶かしたりするだけだから楽だな」
「でも、それだけじゃあ、面白くないじゃないの。少し隠し味を入れたりするのもいいじゃないの」
「確かにね。私は手作り感を出したいからいいと思うよ、優梨愛が言っていることは」
「じゃあ、そうするか」
真司が仕切り、みんなが賛成した。少し大人風にするため、お酒を入れることにした。
この調理室にはすべての調味料がそろっているらしく、好きに使えるとのいうこと。あの教師は太っ腹だ。
作業へと戻ると、優梨愛と華音は手慣れた手つきでチョコレートをとかし、お酒と生クリームを少し入れて、なめらかにしている。
「こうすると、いい感じになるのよ。私はいつもこのレシピで作ることが多い。華音はどんな感じなの?」
「わ、私。そうだね、お酒は入れないで、普通に市販の溶かして終わりかな」
「へぇ――、そうなんだ。意外と力入れていると思ったんだけど」
「そうかな。でも、私の場合は家の人だけだったから」
二人で話が弾んでいるようだが、俺たちは入ることができない。
「俺たちって、あの中に入るとか無理だよな。普通に考えて、チョコレートをこの時期に作らないじゃない」
「そういわれれば、俺だって、作らないよ。今日は華音と水奈は作っていた言うより、チョコレート持ってきてたけどな」
いきなり、真司は苦笑いをした。
「そうか、持ってきたのか。やっぱり、高校生にもなると渡そうと思うよな。うん、思う。俺たちももらった分は返さないとな。もしかしたら、好きであげる人もいるかもしれないしね」
「そうかな」
「わからないぞ。意外とくれたりした中にいるかもよ。お前が好きでたまらない人」
俺的にはいなそうに感じるのだが。
――確かに、近くにいるけどな。俺のことが好きでも伝えられない人がな。
真司は知っているのかは知らないが、俺のことを好きなのはうちの中にいる。そのほかにもいるかはわからないが、二人とは付き合う気はない。
真司はこちらを向いて、俺のことがすべてわかったような顔をしてニヤリと笑っていた。
ある程度出来上がり始めた。作り終わったチョコを入れ物に入れて持っていた。教師の趣味なのか、意外とかわいらしい箱が用意されていて、その中にチョコを入れる。女子が作ったような感じが漂っているが、俺は気にしない。すると、教師がいきなり話し始める。
「それじゃあ、出来上がったものをあげたい人にプレゼントしてね。それじゃあ、あと片付けもできたので、授業を終わりにするわよ」
その場で礼をして、調理実習は幕を閉じた。
昼休みになると、俺は授業で作ったチョコレートを麻衣にプレゼントをすると、麻衣も俺にチョコレートをくれた。屋上で。
それを見ていた悠馬とかは、笑いながら言った。
「よかったね。もらったじゃん。俺なんか結構もらったよ」
「そうなんだ。俺も朝に女子からいっぱいもらった」
「意外ともてるね。あまりチョコなんかもらわない人かと思ってたよ」
「昔はな。あまりもらった記憶とかないな。普通に一日が過ぎていったように感じるし、中三の時は勉強のことばかりで、バレンタインなんか気にしてなかったもの」
「そうなんだ。やっぱり和孝らしいよ」
「なんだよ。その俺らしいって」
悠馬の笑い声が屋上で響いているのだ。そんなことを知った麻衣はすごいことを言う。
「やっぱり貰うんですね。私のチョコなんかもらってもうれしくはないじゃないかなと思うんですけどね」
少し拗ねてしまったようだ、。俺の大失敗。
放課後へとなると、俺は華音に呼ばれた。なんとなく予想はついていた。体育館裏へと行くと、華音は赤いリボンに市販のホテルが作ったチョコとかで巻かれているラッピングがされた箱を持って待っていた。
「やっと来た。遅いじゃないの。普通に考えてすぐに来てよ」
「ごめん。少し忙しかったんだ」
忙しかったのはうそだが、少し勉強をしていたからだ。実習室で。
「はい、これ。和孝にあげる。うれしいと思うけど、家に帰ってからね。私があげるんだから、喜ぶのよ」
はいはい、ツンデレが出てしまった。完全に出た。すぐにわかるような言い方。すると、華音は照れながら走っていた。
華音が見えなくなったくらいから、箱を開けて、チョコレートを見ると、なんかうれしかった。
不器用なのに、頑張っている感が出ているような。文字を書こうとしてちゃんと書けてないところとか。形が少し崩れたとか。華音らしかった。
これが急いで作ったものだというのはすぐさまわかった。
「頑張ったな、華音。俺のために作ってくれたんだろ」
すると、箱の中に手紙があった。
「何か書いてある。『いつも迷惑ばかりかけてごめんなさい。本人の前では言えないので、手紙で言います。いつも冷たくあたったりするし、できないことをやろうとして失敗する。そんな私はおかしいと思う。でも、支えてくれる和孝のおかげで、いつもやっていけてます。ありがとう』なんか、華音としてはやってくれるな」
俺はいきなりの涙にびっくりした。そして、思った。
――これが俺の感謝の気持ちがこもったチョコレートだ、と。
俺にはそのチョコレートは新鮮味がある斬新なチョコレートのように見えたことをうれしく思った。