夢の異世界パニック
2020年7月13日正午、突如、空から6つの巨大な黒いサイコロが降ってきた。 1辺20mくらいある大きな物体だ。 落ちたところは世界で六箇所、主に人が住んでいない森や山などだ。 そのため、人的被害はないとされている。
日本にも1つ降ってきたみたいだ。 富士の樹海に落ちたらしい。 地面が軽く揺れ、小さな地震が起こった。 落ちてきてから1週間はそのニュースで持ちきりだった。 「一体どこからこのサイコロは来たのか?」 「何の目的があって落ちてきたのか?」 「何で作られているのか?」 「なんでサイコロ?」
議論の末、3つの説が有力視されていた。
1. 地球外生命体からの異物
2. 宇宙で実験中の某国の研究材料
3. 異世界(もしくは未来)からの郵送物
世間では、宇宙人の異物という説が濃厚だ。 そのため、アメリカの宇宙調査団や、日本の地球外生命体研究班などが調査の主導権を握っていた。 今のところ公開されている情報は「材料は未知の物質で作られている」ということくらいだ。 新聞や雑誌には一応サイコロの写真が載っていた。 黒い面に緑の目だったのでかなり威圧感があった。 しかし、国民がパニックを起こさないようにと、かなりの情報規制がされているらしい。
最近の世の中の主なニュースといえばそんなところだろう。 しかし、サイコロ.が降ってきて1週間ほど後に、僕は奇妙な夢を見るようになった。 もちろん、サイコロとの因果関係は不明であり、僕だけが見ている単なる夢の可能性も十分ありえる。 何が奇妙かというと、内容がいつも同じだからだ。
まず目を閉じて眠りにつくと、いつも透明な湖に向かってまっすぐ逆さまにゆっくりと落ちていく。 まわりはいつも真っ暗で水面に当たるとバシャッって音と水しぶきが上がる。 当たる前は反射的に目をつぶるが、恐る恐る目を開けると白い天井が見える。 そして、いつの間にか水は消えている・・・
なんとも不思議な感覚だ。 意識ははっきりしているから、いつも現実か夢かの区別がしばらくつかないでいる。 部屋のレイアウトも現実とまったく変わらない。 木の机、たんす、そしてベットやポスターの色や位置までだ。 だが確実に夢と断言することができる。 なぜなら、鏡に映った僕は髪が肩まで伸びており、顔も女っぽく、背も縮んでおり、なにより胸もある。 最初はかなり驚いた。
「誰? 僕?」
そしていつもある結論に達する。
「こりゃ夢だな」
そう思い込んで僕は勝手に納得していた。 この夢の中では大抵、だらだらと部屋で漫画やネットを見て過ごして、ベットで目を閉じたらまた同じ水の中に落っこちて現実に戻っていた。
最初は特に気にしてなかった。 やけにリアルな夢だな、程度でしかなかった。 だがそれが3、4日続くと、さすがにおかしいなと思った。 親は海外で働いていて、時差があるのでたまにしか連絡を入れない。 精神科行ったほうがいいのかな・・・
とりあえず翌日、高校の学食でうどんを食べながら、軽く同好会の友人に話してみた。
「なあ裕樹。 ちょっと相談したいことあんだけど」
「なんだ、いきなり?」
「最近変な夢を見るんだよ・・・」
「ん? お前もか?」
「笑うなよ。いつも夢の中で女になってるんだよ。 ここ4日間ずっと」
「マジかよ。 そりゃおかしな話だな。」
「笑うなって言ったろ。 やっぱ医者に行って相談したほうがいいのかな?」
「いや、とりあえず行く必要はないんじゃね?」
「どうしてそう言い切れる?」
「俺もここ4日間ずっと同じ夢見てるからな。 他にもいるらしいぜ。 明日の研究会の話題にするつもりだから出ろよ。」
よく見ると裕樹の目の下に隈ができていた。 なんだよかった。 僕一人ってわけじゃなかったんなら少し安心だな。 でも複数の人が同じ夢を見るってなんか気味悪い・・・
五日後にはさすがに雑誌やテレビで夢のことが取り上げられていた。 いろんな推測やいい加減な説もあった。 たとえば、某国の電波による精神攻撃だとか、ESPによる精神感応説。 ただ、確実にわかっていることは次の3つだ。
1. 性別が入れ替わる
2. 五感がある
3. 現実の世界とある程度の違いしかない
しかし、何が本当で何が嘘なのかまったく分からなかった。 ネットでもこの話題で持ちきりだ。 ただ言えるのは、日本限定というわけではないらしい。 これは世界中で起こっている事象なのである。
不安もあったが、好奇心も沸いた。 いったい何故こんなことが起こっているのだろう?しかも同じ夢? みんなどう考えてるんだろ? とりあえず、今日の放課後に裕樹が研究会の話題にあげるらしい。 最後の授業が終わった後、荷物を持って超常事象研究会の部室に歩いていった。 部室の扉の前まで行くと、すでに研究会メンバーの夏目由香と岡野真理が夢について話しあっていた。
「・・・あの夢、精神的によくない」
「女子にとっては拷問よねー。 毎日あの夢見ると鬱になるわ」
女子同士の会話してる最中ってなんか入り辛いな
「ちわーっす。 何ドアの前でぼーっと突っ立ってんだよ、開けるぞ?」
「あれー珍しい、浩太じゃん」
「うるさいぞ夏目、2週間くらい前にも来てただろ?」
「あれ? 俺が最後か」
「おせーぞ、裕樹隊長!」
「普段来ないやつが偉そうにすんな!」
研究会は7人いるが残りの3人は部室に来なかった。 もともと幽霊部員共だったからいつものことだ。 集まったのは二年の夏目由香、一年の岡野真理、一年の水野浩太、そして最初に相談した三年の上崎裕樹。 三年生は僕と裕樹だけだが部長は裕樹だ。
「先週までは謎のサイコロについて調べていたが、緊急の議題ができた。 今回のは事前に言っておいたとおり、あの謎の夢についてだ」
「へー、ソリャー、オドロキダナー」
「おい! 浩太、ふざけるな」
「ういっす、隊長!」
「とりあえず、みんな大体のことはテレビや実体験で分かっていると思う。 俺はその新事実を検証によって導きだしたいと思ってる」
「私はあんまり乗り気じゃないなー。 だって向こうじゃ私、『男子』なわけだし」
「夏目は元から男っぽいから大丈夫じゃね?」
「・・・」
「イテテ、殴るなよ」
「そこ! コントは部活後にしとけ。 今日のミーティングはあまり長くはしたくない。 まだいろいろ調べたいこともあるしな。 だがひとつ、はっきりさせておきたいことがある」
「はっきりさせたいこと? 何を?」
「夢を見ている人が実際同じ世界にいるかどうかだ。 俺が思いついた検証方法について説明する。 今夜、夢の世界に入ったら、俺たちは高校に集まって通常通り、会議をする。 そこで話した内容を後日、現実世界で確かめ合うってな感じだ」
「それはおもしろいな。 僕たち夢で繋がってるってのは考えてなかった」
「ほんじゃー夢の世界の午後1時ごろに学校で会うってのはどーよ?」
「なに勝手に指揮ってんの浩太! 真理は大丈夫?」
「検証を持ち出した俺が言うのもなんだが、それが心配だったんだ。 もちろん岡野さんに無理強いはしないよ」
「普通、大丈夫じゃね?」
「あんた少し黙っときなさい」
「浩太、デリカシーが足りないぞ」
「私、多分行ける・・・と、思う・・・」
「よし、とりあえず浩太の提案どおり、午後1時に学校で会おう。 後で何か質問があったら俺の携帯にメールくれ。 では解散!」
夏目さんと岡野さんは一緒に話しながら部室を出て行った。 これから裕樹はネカフェで調べ物、浩太はゲーセンに行くらしい。 僕はまっすぐ自転車でアパートまで帰った。
帰った後は向こうの世界に行くのが楽しみでしょうがなかった。 みんな一体どんな姿をしているのだろうか? てか実際、夢は繋がっているんだろうか? 普段ならネットで深夜1時くらいまで遊んでいるのが日常なんだが、今日は夜9時に白いふかふかベットに飛び込んだ。 やばい興奮しすぎて眠れない・・・