ライブアライブ
*
「きゃ…キャア―――――――――――――!!!」
ぺたん。
尻餅。
床が冷たい、なんて思う余裕もなくて。
驚愕の声(断じて悲鳴ではない。これ、重要)の後。
ただ驚きのままに、突如襲来した物体を見つめた。
視界を埋め尽くしているのは、半分剥き出しの赤い筋肉、グロ眼の顔。
どうして化学実験室にこんなものが?高校なら生物の教室じゃないか…という疑問はさて置いて。
それが不自然に軋みをあげながら蠢いている。
あり得ないものが動くこの状況。
訳がわからない。なんだコレナンダこれナンダコレ???
そんな問いかけに答えてくれる人なんて、
「コレの動き何か巨○兵っぽいよね」
「あ、ああ。でも俺は最初ハ○テで既出のネタだと思ったけどな。
………………………おい」
“いた”。
ああ……オレとしたことが。
一瞬でも忘れていたとはな。
この“馬鹿”を。
「…………チューチュー」
……非常に無駄なあがきを感じた。
「ああ、何だネズミか~…ってなるかっ!サッさと出て来い!」
「………」
答えはない。命令に対して無言。
そういえばコイツにこういう時の対処法、教わったんだったな。
「十秒以内に出てこい。きやがらねえと……分解すぞ?(←ドスの最高に効いた声で)」
「ひいぃぃぃっ!ゴメンなさい!」
すると、あっさりいぶりだされた獲物が一匹。
とりあえず顔面を全力でアッパーカット。
……スッキリした。
*
……はい。アッパーカットを食らって、きりもみしながら吹き飛んだ綾波です。
久々の『僕』視点なのに吹き飛んでるよ。宙を舞ってるよ。
重力加速度を感じながら地に落ちると、尋常じゃないくらい痛かった。
でもそれだけは叫ばなければならないことがある。
それを言うのが二回目だろうと!
「殴ったね!?親父にもぶたれたことないのに!!」
「、」
一瞬の冷えきった間の後、
すぅ、と息を吸ったシズクちゃんから出た言葉は、
「うるせんだよド素人がっ!!俺だって勇気だしたんだよ!でも何なんだアレ、舐めてんのか!?」
ゴスッ、ゴス、ゴスゴスッ!
「五度もぶった!…じゃなくて、ちょ、ちょっ待っ!痛たさが!?痛たさが笑えないレベルだよ!?」
「……Salvare000」
「シズクちゃん何か悪ノリしてない?それ日常で唱えるタイミングなんて普通ないよね!?」
「いけませんね。『怒り』は七つの罪の一つだと、そう教えられたはずなのに」
コキ、コキ。もはや元のキャラなんて崩壊したご様子で指を鳴らすシズク様。
いやちょっと待って!?冷血クールで売るって方向じゃなかったんですかー?
でもそんなことは聞けないので、取り敢えず後退り。
退却魂(生き延びたい)は、まだ持ってるぜ!!
「あんなに悲鳴は可愛いかったのに、その後の反応がキツすぎだよ!」
「だからっ、それを忘れやがれってんだー!!!」
ドゴッ!
「ぐあああっ!な、何で僕の周りはこんなに照れ隠し暴力キャラが多いの!?」
「だからアレは、……違うから早く忘れろこの馬鹿!叩けば忘れるようなアホだったろう貴様は!」
「その赤面は可愛いんですけどねぇ!ていうかそんな古いテレビみたいな扱い!?それに攻撃がっ!無駄に、洗練され、て、ぐふぉっ!?」
その後五分ほど、
ギャグマンガみたいなノリで、だけど全然ギャグじゃない威力でしばかれました。
*
「御免なさい御免なさい僕が悪いです御免なさい御免なさい生まれて御免なさい御免なさい御免なさい死んでも御免なさい御免なさい」
「……足りんな。もっと誠意を見せやがれ」
「くっ……、水無月さんの時とは逆の立場になるとは……!」
「あ゛あ゛?」
「スミマセンでしたーーー!」
女の子に向かって土下座をして謝る男子高校生がそこにいた。
というか僕だった。
「うう……僕が悪かったって言ってるじゃん。そろそろ機嫌直して!……あ、そうだ。なんか僕に用事あったんじゃないの?それでココまで来たんだろうし」
よし、我ながらナイス話題そらし!!……と思ったら、
「…………」
一転、絶対零度の視線が僕を射貫いていた。
「な、何……?」
「…………」
急激なシリアスモードへの転換に戸惑いが隠せない。
(じゃあ、モードチェンジ?)
クロック○ップして、一瞬でそういう、『かお』に変える。それか蒸着とかでもいいけど。
そして対峙する。
魔王と、女王、が。
……僕側の心構えは微妙だけど。という訳で『僕』視点、もう終了?
*
まさか。
まさか、コイツから話を振ってくるとは思わなかった。
だから、顔が一瞬で凍りついてしまった。
浮かれてかけていた心は、また、冷たく落ち着く。
……俺はアイツを直線的に、真っ直ぐ見据えた。
そして冷静になって思うのは、……コイツは――
――コイツは本当に“あの”着服に関わってるんじゃないか、と。
(注・綾波は何も考えていません)
だから。
だから、わざとこの話をし始めたんじゃないか、と。
(注・綾波は本当に何も考えていません)
そう思うと、いま目の前に居るコイツが急に得体が知れなくなって。
(注・綾波は“はねる”をしているコイキ○グ並みに何も考えていません)
だから、何も言えなくなって、無言で、見つめ合う。
………
……
…
あの『紙』のコピーは、ポケットの中にあった。
自然と手は、そこに向かう。
カサリ、カサリ。
無機質な手触りはただの紙のそれだが、コイツにとって、……俺にとっても、これは『爆弾』だ。
ここでこれは爆発してしまうのだろうか。
それは出来るだけ考えたくなかったが、ここに来て余計に疑わしい――
キュッと、唇を真一文字に結ぶ。
頭の中で何度もシュミレーションした言葉。
それを、
喉の奥で反芻し、
遂に、俺は――
〈I was a lonly girl.I even tried to give up living.
-he gave me some word.It is so strange and stupid.But...〉
パサリ。
広がった、紙が。綾波の前に。
「……これは、貴様が関知する所にあるのか」
「……」
綾波はそれを手に取り、表情を険しくする。
その何気ない仕草を俺は固唾を飲んで見守る。
……そして、その口から出た答えは、
「え、なにこれおいしいの?」
「……………………まぁ、ある程度想定通り、か」
綾波の今の反応。
あくまで『希望的観測』の方の『想定』ではあったが。
「嘘は、つかないんだよな?」
「……?僕は基本的に面白くなりそうな時にしか嘘はつかないよ?」
「それもどうかと思うが……そうか」
ふ、と溜め息をつく。
――杞憂、だったか?
と、ホッと胸を撫で下ろそうとしたその時、
「……!!これは!?」
「……どうした?」
「この明細書、一体何処で?」
「ああ。……それは貴様の部屋にあったものだぞ?」
「へっ!?」
「他の書類を貴様の部屋に取りに行ったときまぎれたらしい」
「へ、へぇー。……あ、僕の部屋って『理事長室』のことか」
「……他に何処がある?貴様はあそこでしか仕事をしないんじゃなかったか?」
「………………さいですね」
「………?」
何だ何だ。反応が随分と遅くないか?
綾波らしくもない。
ジッと、綾波の顔を見つめてみる。
すると、あることが感じて取れた。
あの様子。あの顔色。そしてあの頭の鈍りよう。
「何日目だ?」
「え?」
「だから徹夜を続けて何日目だと聞いている」
「…………分かる?」
「バレバレだ」
ボサボサに伸びた(俺がいつも切れと言うのだが聞かない)髪のせいで目の辺りが隠れているが、多分あの下には隈でもできているんだろう。
「……また仕事を溜めてたのか?」
「い、いやー?今季は豊作だぜとか言って深夜アニメ見まくったり、何か急にマク○スはテレビ版と映画版のどちらが正史か見極めたくなってチャンポンしてたとかそういうことはないよ?」
「…………バカが」
「ちょっと!?小声でポツリと言われるとかなり本気に聞こえるから!」
だから本気でそう思ってんだよ!
……は。本当にコイツは――
「……そんなに疲れてるんだったらあんな慈善事業みたいな依頼を受けなければいいだろ」
核心。そうだ。俺はそれを常々聞いてみたかった。
「自分の身を削ってまで他人の為に何かをすることは、貴様の言う『楽しいこと』なのか?俺にはそれは…」
「愉しいよ。自分の娯楽だもの」
「だが、それで自分の体を壊しては元も子も……」
「流石にそこまではしないけどね。まぁ、学生に混じってアホみたいに騒ぐのも悪くないじゃん」
「……そうなのか?」
「んー?雫ちゃんも生徒会やってて楽しいから続けているんでしょ?それと一緒だって」
そういうもの……か?俺は楽しんでやってるのか?
あんな“汚い真似”を?
その瞬間、思考が急に冷徹に戻る。
“本題”はまだ解決してないではないか!綾波でないならいったい誰があの金を?
「貴様が知らないならこの紙は誰が……」
「ん?あ、それを作らせたの僕だったわ。いやーごめんごめん」
……………………。
はぁ?
「はぁ?」
思考と全く同じタイミングで声が漏れていた。
「これは僕が個人的に人を使って調査させた結果なんだよ」
ん?……綾波が作らせた?
と、いうことは、
「お前……まさか知っててこの事黙認してたのか?」
「いやいや!それは違うよー!」
俺が詰め寄ると、綾波は焦ったようにすぐさまそれを否定した。
「いや、その調査を依頼した人っていうのが今海外に出ててね。片手間にやってもらってたからFAXで結果が来たんだけど、……理事長室がね……」
口ごもる綾波。
――成る程。すぐ理由は分かった。
「あの“汚”部屋に置いといて混ざって無くした、ってことか。……本当に自分の興味の無いことに対しては無頓着だよな」
「ぐ……。だってあそこは生活するとこじゃないし、仕事だけだから書類を並べててもよくない?」
「書類を“敷き詰める”、の間違いだろ。そんなだからこんなこと面倒なことになるんだからな」
はぁ。本当に呆れたものだ。
冷ややかな目で見ると、綾波はわざとらしく口笛を吹く真似をしている。
取り敢えず一回頭を叩いておいた。
三か月ぶりの更新…。大丈夫なのかなコレは。
一応、主としてモバゲーで活動しております。
次の更新はいつになるのかわかりませんが、生存はしてますので!