離島症候群
*
散々だ。
考えるのも面倒なくらい、今日は散々だった。
朝は、いつも食べるソ○ジョイとウ○ダーが売り切れだし。
昼は、不審者が侵入とかいうデマにまた昼食を食べ損なうし。
そしてなんといっても放課後は、……“アイツ”だ。
不意討ちで来やがったし。
全然予想外に来やがったし。
……醜態さらしちまったし。
そういえば最近、屋上に行ってないことに気づいて頭が少し痛くなった。
――そんなことを考えながら、オレは廊下を進む。
目的地は“アイツ”の所。
(そういえばアイツの所にも行ってなかったな)
愚痴を言えるのはアイツだけだから、最近は溜め込む一方だった、と気づく。
アイツは途方もないアホだが、面白い人間であるのも確かだった。
(無駄話があんなに面白いものだとは、……中学までの俺は知らなかった)
しかし今日はそんな軽い話が出来るはずもなく。
今日の結果、金輪際それも出来なくなる可能性すらある。
そんな“告発”。
「…………バカ野郎が」
そんな呟きは誰に聞こえることもなく、暗い廊下に溶けていった。
*
(理科室……。こんな時間だが、ここに寝泊まりしているって言ってたよな)
校内にたいした距離もあるわけもなく、すぐに着いてしまった。
その部屋は、窓という窓に全てカーテンがしてあって中が窺えない。
なのでここからは明かりの一筋も見えなかった。
しかし外観は存外普通なんだよなこれが。中に入ると相当面食らうが。
(本屋並みの蔵書【注・マンガのみ】とか、あのソファーは流石に趣味を疑うし。何を考えているのかもわからんからな)
付き合いは一年ちょいになるが、サラサラよくわからない。
頭はいいクセにあの言動、行動。果てには暇潰しに何でも屋まがいのことをしているとか。
(……まぁ、わかろうともしていないが)
この一年でわかったのはそういうことかも知れない。
(他人の理解なんて、ある程度で十分だ。少なくとも“俺にとっては”)
一般論は聞きたくない。普遍化した論は薄っぺらく感じる。
(アイツにとっての“生きるための哲学”は“快楽至上主義”。なら……“オレは”?)
一年は短かった。でも二年でも三年でも、何年かかろうと見つけようと思っていた。
“アイツ”がそばにいるなら。
(それが、今日で終わりになるかもしれないんだな……)
なんて、他愛のないことを思ってなかなか扉を開けずにいる自分に気づく。
激しく顔をしかめた。
(ぐずぐずしていても埒が明かないな。……行くか)
ノックも何もせず、勢いよく扉を開く。
*
最初に気づいたのは、部屋に明かりがついていなかったことだ。
と、思ったら急に視界が明るくなった。
どうやら人が入ってくると自動的に明かりのつく仕様らしい。
(本当に無駄な事が好きなヤツだ)
呆れ混じりに息をつくと、次に目についたのは主人が不在の金色のソファーだった。
「留守――か?」
それにしてはあまりにもタイミングが良いが。
(それともオレのタイミングは悪いのか)
どちらにせよ無駄足だった。
(仕方ない。出直すか)
また散々な日の記録更新かと、肩を落として。
でも何処かでホッとしている自分がいる気がして。
そんな、複雑な感情を抱えたまま身を翻したその時、扉の内側に貼ってあった紙に目がいった。
貼り紙。
そこにはこう書かれている。
【魔王さんはお出かけ中です。お急ぎの場合は化学実験室まで】
…………。
(外に貼っとけよ……)
ツッコミは無言のうちに。
*
苛立ちのままに乱暴に扉を閉めて理科室を出る。
(なんだって今日は本当に面倒なことばかりだな)
それに、なんというか……“心が”、落ち着かない。気持ち悪い。
言うなれば、
(嫌な予感、嫌な気配。それしかしない)
第六感は信じてないのだが。
その瞬間、ほんの一瞬だった。廊下に“何かの音”が響いた。
“ひっ…、…ャッ…”
そんな、“音”。
聞き間違いかもしれない。だが女の、悲鳴のようだった気も……?
(気のせいか?)
疑えば疑うほどに今聞いた音が空耳だったような気がして。
――本当は一度戻れば良かったのだ。
結論はそれだけなのだが。
その時のオレは、あの報告書に夢中だった。
止まった足はまた進みだし、振り返ることもなく進んだ。
――これも一つの選択。そしてこれによって、物語はさらに加速する――
*
化学実験室。
こんな時間……もうそろそろ9時になるが、ここで何をしているだろうか。
………
……
…アイツの行動を予測しようとするほうがバカなのかもしれない。
実験室を見ると、カーテンの隙間から光が漏れていて、そこに誰かがいることは明らかだ。
というかアイツ以外にいないだろうが。
(この導入【モノローグ】にも飽きたし、サッさと行くか)
()←による心情描写はあまりに続くとうんざりするからな……。
なんて、誰に向かって言ってるんだかわからないことを思い(思わされ)ながら俺は、
目の前の、扉を、開く。
その時の“オレ”は、
心を凍らせて。
造り上げた顔で。
鉄面皮と呼ばれても。
誰かが離れていっても。
揺るがない哲学を持って。
“生徒会室の女王”として。
落ち着いた、平素な気持ちで。
飄々としたアイツのように……。
関係の断裂も恐れず進んだ。
そこには、
『人体模型』があった。
…………目の前に。
「は?」
わざと鈍らせた心からかろうじて出てきた言葉そんなもので。
次の瞬間にはそれが、
うご…いて…?
ゆっくりとこちらに、
向かってくる?
そんな急激な場の異常に、次に出てきた言葉は、
「きゃ…キャア―――――――――――――!!!」
不覚にも、言葉ですらなかった。
福島なので地震(3/11)の影響をもろに受けて更新遅れました。
家から出れん……。次の更新もいつになるか微妙です。気を長くお待ちください。