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騒がし乙女の憂愁


「新聞部を…………ボクは、再建したいのですっ!!」







理科室に、久々に威勢の良い声が響く。






……皆さまお久しぶり。

綾波(アヤナミ) 流星(ナガル)、16才。ガン○ムに乗った時のアムロよりも年上なことにちょっぴり感動するこの頃な学園生兼理事長です。


さて、先日の事件を解決したと思ったらまたこれだ。


嗚呼、魔王って人気なのかなぁ?

まだ昼休みなのにすぐ来るとは。





さっきの大声の主はソファの前、僕の前に深々と頭を下げていた。




「ん、まぁ……ちょっと落ち着こうか」


少し彼女は興奮ぎみに見える。

というか、鼻息が荒い。フシューフシュー、と今にも走り出しそうな列車のようだ。



「ボクは冷静ですっ!!!」


「語尾にエクスクラメーションマークが3つもついてる人は冷静とは言わないよ」



コーヒーでも飲む?、と聞くと、い、いただきますとの答え。


僕はコーヒーメーカーのスイッチをいれると、傍にあった自分のカップを一口すすり、“彼女”に向き合う。



その視線は目測よりだいぶ下で固定された。



……はっきり言って小さい。

140はあるのだろうか?、そんな生物が目の前で跳ねていた。


「あ、あのっ!」


「ん?なーに?」


ふーむ、何処からどう見てもちっちゃいな……。

こなたとかゆたか、クドリャフカに大河、ナギに種島さんクラスかも。


それでいてボクっ子か……。


「末恐ろしいな…」


「?、何がです?」


「ん、いやこっちの話」



合法ロ…、嗚呼ダメだ。アグネスホイホイに引っ掛かる訳には…。


僕はわふたーはもう完全にアウトだと思います。

……スゴく買いたいけど。





「そうは思わない?藤堂(トウドウ) 三春(ミハル)ちゃん」





「ふぇ、何がですか?」


ここで普通の返答が返ってきた!


「嗚呼、驚くとこすらスルーするとは……」


これが天然の威力なのか…?凄い、凄いよ…ス○ッガーさん…


「???、魔王さんは何だか不思議な人です?」


黄昏れモードになった僕の様子を見てミハルちゃんは至極、不思議そうな顔をした。





「それで、新聞部を再興するにしてもキミは何がしたいの?」


まずはそれを知らなきゃ始まらないよね。

黄昏れモードから復活した僕がそれを聞くと、彼女はその小さな背をいっぱいに伸ばしてこう言い放った。


「新聞をつくります!」


………

……

…いやいや。それは分かってるっちゅーに。


「あ、あー…どんな感じの?」


具体例はなにかないの?




「ワシントンポストみたいな…」


「スケールでかっ!?」


「え……じゃあ、毎日とか産経ぐらい?」


「キミは何を目指してるのさ…」


「……すると、正教とか創価とかですか?」


「それはアウト!偏りすぎでしょ右とか左に!」



冗談にしか聞こえないのだが、彼女の目が本気なのが困りものだ。

僕のそんな様子に気づいたのか、彼女は肩を少しすくめ、


「……七不思議です」


ポツリと言った。……謎のワードを。


「七不思議?」


「そしてあの生徒会長をギャフンと言わせるのです!」


「……話が繋がらないね」


どゆこと?


「その、ですね。話せば長くなるんですが…」


そうして彼女の本当に長い話が始まった。





「私が新聞部に入ったのはこの学園に入学してすぐでした。一年生はボクだけだったんですが、その時は三年生もいて、人数も少ないながら細々とやっていたんです」



ああ、そういえば去年壁に張ってあったの見たな…。

たしか……『生徒は見た校内での未確認生物の怪~吸血鬼編~』



嗚呼、“アレ”か……。



「でも6月になって三年生は引退しちゃって、他の一年生を勧誘しようとしたんですが……」



そのまま彼女は顔を伏せる。

うーん…ちょっと想像してみる。この小さい生物が部員勧誘…。

この子が部長で、部活を率いていくって言われても確かにちょっとアレだよね…。



「それでもボク1人で何とかしようと、頑張ってたんですっ!ちゃんとした新聞を見てくれれば今からでも入ってくれる人もいるかなって…。

でも、そこにアイツが現れた!」


「アイツ?」


「あの冷血無慈悲の最低最悪冷血生徒会長です!」


「冷血二回言ったね…」


まぁ…、わかるけど。

美人さんで有能で仕事も出来るんだけどね。

ちょっと感情に乏しいというか冷たい印象を持たれちゃう事が多いから。


「何があったの?」


「よくぞ聞いてくれました!ボクとあの冷血鉄血熱血女の因縁は深いんです!」


「熱血は多分違うよね…」


これは……もの凄い逸材と僕は話しているのだろうか。

歩く萌え要素……?




「それはある日、ボクがいつも通り特集記事の見出しを作っていたところでした」


「あ…、ふむふむ」


ああ、危ない危ない。ちょっと聞き逃すとこだった。


「急に部室のドアが開いてあの女が入ってきたんです!そして突然、『この部室と、残っている部費全額を生徒会に返還して貰う』って」



「……それは予告なく?」


「はいなのです。突然、本当に突然のことで…」


抵抗する間もなく、だったということだ。

……まぁ、最初からそれが目的だったんだろうとは思うけど。


「それでボクは部室を追い出されて、新聞部も事実上休部状態…。さらに次の職員会議で不要の認定を受けたら部自体も完全に廃部にされてしまいます…」


彼女はそう言ってうつむく。

その瞳に光るものが溜まってるのはここからでも分かった。




……さて、背景は理解した。

それじゃあ現実、何がしたいのかをお聞かせ願おうか。



「その事と、七不思議は一体何の関係があるの?」


それが不思議、なのだけど。



「それですっ!“それ”こそがボクの酒池肉林の策なんです!」


彼女はそう叫んで急に明るい顔を取り戻した。


……かなり表情の豊かな子だな、と他人事に思う。まぁ、それはそれでとても面白いのだけど。


言ってることはもうワケわかんないけどね。多分、起死回生とか言いたかったのかな?


「そう、七不思議なのです!その噂の真偽を新聞部がカレーにスッパ抜いて、生徒達の任侠を得るんですっ!

どうですかコレ、名案じゃないですか?」


考えつくのに一週間かかりましたけど、とも言いなさる。


それにしても、

カレー→華麗

任侠→人気

……どれだけ萌え成分を含んでいるのんだろうか、この子。

というか“萌え”を通り越して“蕩れ(とれ)”までいくかもしれない。

嗚呼、ヶ原がはらさんれ~。



「ふーん、面白そうっちゃ面白そうかも」


ん、水無月さんのあれより面白いかどうかだな。

まぁ、前みたいに肉弾戦があると僕もヒヤヒヤするからコレくらいが“暇潰し”にはちょうどいいかもしれない。



そんな風に考えながら、僕はこの依頼を甘く、禁○目録16巻253ページあたりの美琴さん、もしくは消失の長門さんくらい甘く考えていた。


「ふーむ、ふむ、ふーむ。まぁ、概要は分かったさ。じゃあ、七不思議を探す手伝いを僕にして欲しいってことでいいの?」


そういう流れだよね、コレ。


「はいですっ!あ、でもあと探すのは六個だけですけど」


「え?何で?」


「だって、あのうちの1つは…ボクの目の前にいますし。理科室にいる魔王さん、でいいんですよね?」


「あ、あー…そうか」


そういえば、そういう噂があったか。…若干邪魔だったから消した気ではいたのに、まだ完全じゃなかったか…。



「……ねぇ、そこは最後にしといてくれる?」


「はい?何でですか?」


「それは魔王(ぼく)の都合上、ってことで。そのかわり、戦力に成りそうな人を紹介するから」


「はあ。それはどなたなのですか?」




その質問に僕は少し微笑んで、


「会ってからのお楽しみだよ」


と悪戯っぽく言う。




「そんな感じで水無月さんの協力が決定しました!」


「……はぁ……」


不機嫌オーラを隠しもしない水無月さんは、理科室の扉の前で頭を痛そうに押さえて立っている。


「まぁ、それも仕方ないか。今日はこれから九十九さんと図書館に行く予定だったのに僕からのお呼びだし(コール)が入ったんだもんね」


「知ってたんだったら呼ばないでよ!それに何なのさっきのは!?

放送で呼び出しするなんてどんな神経してんのよ!」


「ああ、あれ?あの方法が一番確実だと思ったんだけど」


何がお気に召さないのさ?


「それはアンタが普通に名前を呼ぶならまだ良かったのに、あんな……恥ずかしいことを言うからでしょ!」


ガクガクと僕を掴んで揺さぶってくる水無月さん。


ちなみに何を言ったかは秘密。ああでも、福山ボイスの真似は上手くいったなあ。ルルー○ュ的な……あの囁く感じ、だよねっ!




それにしても…ちょ、ちょ、力強すぎるよ?


首が、首が、飛ぶ!ボロ雑巾のように……!?




「あっ、うわー、本当に水無月先輩ですっ!」


その時、パパラッチ(きゅうせいしゅ)が降臨した。


「え、あ、だ、誰?」


何だか水無月さんは凄くテンパってる。その隙に僕は水無月さんのホールドから脱した。


ヤバい、本気で中のモノがシェイクされるところだった……。



「ふう……。この子はさっき説明した後輩の子だよ。名前は…」


藤堂(トウドウ) 三春(ミハル)ですっ!初めまして先輩!あの学園二大美人に会えるなんて公園ですっ!」


「光栄だと思うよミハルちゃん」


「へっ!?にゃあ、またやってしまいました。顔から地獄の業火がでるほど恥ずかしいです…」


「そんな、顔面を焼き尽くすほど恥ずかしがらなくてもいいと思うよ」



そうマメにツッコミをいれていると、くいっ、くいっ、と水無月さんが僕の袖を引っ張ってきた。

そして囁き声。


(……天然?)


(多分。まぁ、害はないし面白いからいいんじゃない?)


(ふうん…。まぁ、アンタが楽しいんだったらいいけど)


ん?水無月さんは何に拗ねてるんだろう?謎だけど……。


まぁいいかスルーで。


「それにしてもお二人はどういう関係なのです?新聞部としてスゴく気になるのですが」


「えっ、えっ、あ、その……」


顔を真っ赤にする水無月さん。ふむ、何だろねその乙女な反応。


「ある時はクラスメイト。またある時は依頼人(クライアント)と魔王。そして今は……貸し一つ、ぐらい?」


「貸し、ですか?」


あの事件を知られるのは色々面倒だから濁して言ってみた。


まぁ、あながち間違いではないよね?、という意味を込めた笑顔を水無月さんに向けると、今度はそっぽをむかれた。



……だから何に拗ねてるんですか?

ん、まぁいいや。話が進まない。




「それじゃあ七不思議、ちゃっちゃっと探しにいこうか」

「あ、だから関係を詳しく…!!」

「……ふん」


パパラッチもスルー、不機嫌もスルーして、僕は足早に歩き出す。



ここに七不思議探求デコボコパーティーが始動した。





**


「それで、差し押さえた部費の総額はいくらになった?」


夕映えの部屋の中央、

そこに据えられた椅子に収まる少女は、感情を全く感じさせない声音で目の前に立つ少年に問いかける。



「約50万円強。およそ全体の0.5割ほどです」


「駄目だな。せめて1割。100万は切り詰めなければ」


容赦ない言葉。

だが、それに対して少年は特に表情も変えない。少年にとってコレはもう慣れたことだった。


(決して冷たい人ではないんだけどなぁ…)


少年の、胸の中の呟きを聞く人はいない。



「しかし、いいんですか?このままでは生徒会に対して非難が集中してしまいます。

せめて目的だけでも話せば…」


「そうしたら教師どもにみすみす予算を削る余地を教えるようなものだぞ。……せめて来月までは隠し通さなければ」


「……はい」




生徒会長の前には一枚の書類があった。


そこには『生徒』と『教師』達の間で、全面戦争を起こすだけの“決定事項”が書かれていた。




「絶対に……我々が負ける訳にはいかない」


ポツリと、誰に言うのでもなく自分に言い聞かせるように、



彼女は静かに決意する。






孤高の闘いは始まっていた。

タイトルは某鍵ゲーのBGMより頂きました。


新キャラについて。

ボクっ子は嫌いじゃないです。現実には見たことがないのでわかんないですけど。

名前はあれです。そういうとこに住んでます、ってことです。


福島サイコー!


続きはまた明日更新できるかと思います。

ぜひ、読んで頂ければ喜びの極みです。どうぞよしなに(?)

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